終末少女[エンディングガール]
「大人になりたくないよ」なんて、そんなのただの冗談で。
少女の日、大好きな人とした話だった。尤も、今も少女ではあるのだけれど。
「ずっとこのままでいられたら良いのにね」
瞬間、変な耳鳴りがして、当時の私にはその意味が理解できずにいた。今はもう、痛いほどに理解しているけど。
大昔に感じた彼の温もりも、今はもういない人類も、全部記憶から薄れていて。
四九億八千九百七十二万六七八九年前の、遠い遠い微かな記憶。愛しい彼との、幸せな記憶。
それを持ったまま死ねれば、なんて幸せだったんだろう。そもそも、私は死ねるのだろうか?
人類が消えて数十億年、悠久の時を生きた私には想像もつかない死の感覚。もはや知識に過ぎない「死」。それに近いものが近づいているのは文字通り肌で感じている。
最後に死を感じたのはあの時。愛しい彼が死んだ時。それから私は感性を失って。実年齢にて108歳。見た目にすると16歳。
「大人になんかなりたくないね」
なんて馬鹿なことを言って笑っていた頃のまま。まさか本当に大人にならないなんて。それから、私は老いることも死ぬことも許されず。不気味だと言われ、忌み嫌われ、隠れていた。私をずっと好きでいてくれたのは彼だけで。こんなことなら、あんな冗談なんか言わなきゃよかったなって。もう一回やり直せればいいのになって。もしくは、もう一人の自分に全てを託せたらいいのにななんて。むしろ、空気になって誰にも気にされずに気ままに生きられればよかったのに。
大きな、大きな太陽を前にして、最後に思うのはあの言葉。
「前世も来世も一緒だといいね」
来世なんて無い。だって私は死なないし、その来世だってもう無いんだ。でももし生まれ変われるなら....来世はちゃんと――
死にたいな。
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