教壇の下(KAC20237)

ミドリ/緑虫@コミュ障騎士発売中

いいわけ

 クラスメイトのはらは、面倒臭がりだ。


 図書委員なのに図書室に行かないから、同じ図書委員の美香が今日も原を探して校内を走り回っている。


 その原は、美化委員で黒板を拭いている私の近く、教壇の中に隠れていた。ぎゅうぎゅうで笑える。


「いい加減行ったら?」


 笑いを堪えつつ言うと、原は教壇の下でスマホを弄りながら「やだ」と答えた。


「俺、あの子苦手だし」

「出たよ、参加しない言い訳」


 美香はパッと目立つ美人だ。クラスの中心にいる太陽みたいな子。男子人気も高く、原だってよく話している癖にこれだ。


「ええと、図書室静かで落ち着かないし」

「どんな言い訳」

「ナツ、助けて」

「やだよ」


 原もあっち側の人間だ。背が高くて、笑うと可愛くなる甘めの顔は女子に人気が高い。口調も柔らかくいつもにこにこしていて、人付き合いが苦手な私は「すげえ、真似できない」と思っていた。


 黒板を拭いていると、遠くから聞こえる原を探す声が段々こっちに向かっていることに気付く。


「もうすぐ来るよ。覚悟したら」

「俺はここにいない」

「じゃあゴミ捨てに行ってくるから、健闘を祈る」


 そう言った途端、原が突然私の足首を掴んだ。


「おわっ!」

「ナツ、行かないで!」

「ちょ、な、なに!?」


 もう片方の手が、私の手首を掴む。


 足音が近付いてきた。


 ガラッと教室のドアが開く。


「原! いないの!?」


 美香だ。数秒の無音の後、「ちっ」という舌打ちが響いた。え。あの女子っぽい美香が舌打ち? マジか。


 ピシャンと閉じられたドアの音を聞いた原が、「あー怖かったあ」と笑う。足と腕を使って私を拘束しながら。教壇の下、狭いんだけど。


「あのっ、私、隠れる必要なっ」


 原がスリ、と私に頬を擦り付ける。


「怖くて腰抜けたから、委員会行けない」

「また言い訳っ」


 すると。


「……ナツが好きだから行きたくない」

「へ」


 これは言い訳じゃないよ。


 原の言葉に、私の頬は一瞬で朱に染まった。

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