迷う心

瀬川

迷う心




 今日は、特別な日になる。

 ずっと前から計画していて、全て完璧に準備したはずだった。

 それなのに。


『7は日本を含め、多くの国でラッキーな数字だと認識されていますが、実はそうでもないというのを知っていますか?』


「……は?」


 思わず声が出てしまった。

 緊張をほぐすために、とりあえずつけていたテレビから、そんな話が聞こえてくるなんて予想できるはずない。

 頭が真っ白になり、固まってしまう。


 いい日を選んだつもりだった。

 今日なら、素晴らしいと考えていたのに。


 カレンダーを見た。7という数字が、気持ちに引っ張られてか、とてつもなく大きく感じる。

 でも嬉しくない。むしろ落ち込んでしまう。


 こうしている間にも、テレビから聞こえてくる音を、勝手に耳が拾っていく。

 どうして7がいい数字とは限らないのか。国で認識が違かったり、7のつく年に経済的に打撃のあった事件が起こったり。そういう話が、頭に刻み込まれていった。


 テレビなんて、つけなければ良かった。

 こんなタイミングで、こんな番組をやっているのが悪い。いや、観てしまった俺が悪い。


 いい日になるはずだったのに。

 最高の思い出に、一生忘れない時間になるはずだったのに。準備していたものが、全て台無しになった。


 ……この苛立ち、やるせなさをどうしよう。

 胸に秘めているには、あまりに気持ちを入れすぎた。

 大きく息を吐くが、恋人には聞こえなかったみたいだ。


 ソファで本を読んでいる恋人は、テレビなんか全く視界に入っていないようだった。だから、何も知らない。俺が絶望したのも知らない。


 ポケットに触れれば、いつもは無い膨らみを感じた。この中にあるのは小さいが、とてつもなく大事なものだった。

 今日は無理でも、いつかは渡したい。


 7が悪い数字だと教えた、テレビが悪い。知らなければ、ここにある指輪を渡せたのに。


 言い訳と文句を頭の中で重ねながら、俺は恋人に話しかけた。


「7っていい数字だって思われているけどさ、すごいだろうアピールっていうか、結構押しが強くない?」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

迷う心 瀬川 @segawa08

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説