第13話 02月宝瓶03月双魚

『02月』宝瓶宮 坪倉太眉【女性】「ツボクラ タイビ」

【贋作割って三十年 太眉の眉は審美を追う!】

 割る為の皿を焼いて欲しいと、かつての仲間から依頼された。

華麗に割れた音を通じて、芸術音楽を奏でたいと言っていた。

 反対はしない、寧ろ面白そうだと思った。

陶芸家が割る為の器を焼いてなんになる?

避難轟々は承知の上だ。前衛と言うものは瓦礫の上に築かれる。


 太眉を名乗って、かれこれ三十年が経とうとしている。

成人式を辞退する位、窯元に篭って制作に没頭した。

毎日毎日が発見と反省で、渾身の作と呼べるものは常に遠ざかる。

そろそろ後継者を育てる時期になって来ている。

……が、免許皆伝を言い渡すのは時期尚早かも知れない。


 兎に角、今は、最高の音で割れる器を一枚でも多く焼こう。

六弦巡海はきっと納得の行く答を出してくれると信じている。

六弦巡海、若しくは無限巡海。

……こうして見ると、こやつの名は出家した尼さんみたいじゃの。


『03月』双魚宮 魚住慎一【男性】「ウオズミ シンイチ」

【常日頃から真実一路 報道業界の革命児】

「ウオウオウオ! ウオウオウオ!」面喰らいの真実

「ギョギョギョ! ギョギョギョ!」吃驚仰天の刹那

常に騒がしく、キャラに傾倒した報道マンが俺、魚住慎一。


 報道現場で働くことは学生時代からの夢で

仲間達が盛大に開催した麻雀大会も

MICに向かって情熱を叫び合った文化祭も

我等が新聞部「兼」放送部が勢力を挙げて取材に乗り出した。

 映像を編集して、文字をちりばめる。

この作業が私服のひとときだった。


 Mugen巡海と謁見が刻々と控えているが

俺はどうしても、今、世間を騒がしてる

ファストフード店での

マナーを無視した喰い散らかしを

是正する必要があった。

彼奴等の未来なんて知らんが

飲食店の未来は守るべきだと思う。


SOY SAUCE WHISTLE=醬油差しで作った警笛!

これを高らかに鳴らして行こう。

番組SIDEがバラす訳が無いが

俺が張り込んでから三日経つも、目立った悪行は無し。


 死角を狙われていると言うか、150億円に臆しているのか

現時点のファストフード店はかつての平和を取り戻しつつあった。

 番組的に撮れ高の少ない取材だったが、

犯行が起きないことが一番の願いだ。そこをはき違えてはならない。


 そろそろMugen巡海に連絡を入れよう。

聞けば、俺が最後のひとりだったらしい。

【SOY SAUCE WHISTLE】醬油差しの警笛は

【SU SEA LOW】と命名された。因果なものだ。

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