エマーソン大佐のいいわけ‐その時歴史が動いた

千八軒

世界を滅ぼしかけた男

 Q.なぜ危険な核兵器のスイッチを押そうとしたのですか?


「私にもわからないのです。異変は数日前からでした。駄目だと思われること――ここでは、核兵器のボタンを押す事ですが――それを、無性にしたくなったのです」


 Q.大佐は、その現象を外部からの攻撃であると主張されていると聞きましたが?


「はい。そうとしか思えない状況でした。私は核兵器による祖国防衛という任を受けた部隊を率いており、その重要性は誰よりも理解していました。この任務に従事するものは特殊な訓練を受けています。その影響力は、深層心理にまで及びます。それなのに、不用意に、発射ボタンに手をかけそうになるなど……」


 Q.事件後、大佐に対して行われた検査では、マインドコントロール、催眠に類するものを受けた形跡は無しという結果が出ていましたが?


「はい。そうです。私自身もそのようなものを受けた記憶は有りません。ですからあり得るとすれば、遠隔の……そう、精神感応テレパスを発展させた、遠隔精神操作マインドマニュピレーションのような――、そんなものによる秩序破壊を目的としたテロが計画された。そう思っているのです」


 Q.大佐はE S P超感覚的知覚の類を信じておられるのですか?


「――あまり大きな声では言えませんが。あるんですよ、軍にはそのような力を研究する部署が。私はその存在を知っていました。だからこその主張です。警告します。今回は、部下たちが私を取り押さえてくれる事で、無事に済みました。ですが次は無いかもしれない。わが国も早急にESP能力者を集めて、対抗部隊を作るべきです。私は、すべてのキャリアと地位を奪われてこうして拘留されています。ですが明日、こうなるのは元帥閣下かもしれないし、大統領かもしれない。私を捕らえて終わりにしてほしくないのです。これから軍法会議にかけられ、裁かれる哀れな男からの切なる願いです……」


 

 一国の上級将校が涙ながらに訴えたこのインタビュー。

 極秘に接触した報道記者が危険を顧みず公表したことで、大きな物議をかもした。涙ながらに語る男の姿はセンセーショナルで多くの国民の心を動かしたのだ。


 その動きは、国の政治家、ひいては軍部にも波及する。

 正式にESP能力の存在を認め、国家単位で、能力者の保護研究を推進した。その結果、当該分野の研究が飛躍的に進んだのだ。


 詐欺師や、精神異常者のレッテルを張られていたESP能力者たち。

 彼らはこれ以降公式に認められ国の保護を受けることになった。


 研究も進む。ESP能力の源は? という問いは、高次元を介した意識通信であるという回答を得る。人類は高次元にアクセスする方法を発見したのだ。


 そこからの技術革新は早かった。高次元からエネルギーを取り出すに至り、高次元を介した、光の速度を超えた移動も可能になった。


 誰しもが夢見た大宇宙時代の幕開けである。


 ◆◆◆


 それから長い月日が流れた。


 エマーソン終身名誉大統領は、百歳を超える寿命を今、迎えようとしていた。

 彼は最後に、孫娘だけを残し、その他の人々を病室から退出させた。


「君には伝えておこう。儂はあの時、自分の意思でスイッチを押そうとしたんだ。愛人の一人と揉めに揉めてね。妻にもバレ、もう別れるという寸前だった。だが私はを愛していた。両方と別れたくなかったんだ。私は自暴自棄になり、核のスイッチを押してすべてを巻き込んで終わらそうとしたんだ」


 孫娘は大きく目を見開いた。


「人生は驚きに満ちているし、何も決まっていない。儂のように愚かな者の苦し紛れのいいわけが、こんな素晴らしい人生に繋がるなど誰が予想できようか。だからお前も、彼氏にフラれたとしても、気を落としてはいけないよ」


 彼は最近落ち込み気味の孫娘に、人生最大のいいわけの顛末を伝える事で元気を出せと伝えたのだった。そして彼は死んだ。百四歳の大往生だった。




――――――


 最後の最後にオチが弱い……

 SFが難しいんです。私は悪くない。


 最後の最後くらい、つまんない話でもいいでしょ?


 といういいわけ。

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