先輩と私
ニ光 美徳
第1話
私の先輩はとても頼りになる。どんな小さなミスも見逃さない。私のミスにも気付いてくれて、失敗するのを未然に防いでくれたことが何度もある。
対して私はかなりの大雑把で、小さいことは気にしない。仕事をする場合においては致命的ともいえる欠陥人間だと自覚している。
だけど先輩は仕事だけでなく、雑談に対してもプライベートな事でも、細かいことが気になるようで…。
先輩:「ねえ、何で土曜日休みなの?私土曜日出勤してるのに。」
私:「雇用契約でそうなってます。」
先輩:「何でそんな雇用契約になったの?」
私:「私、扶養の範囲内で働くので、土曜日働くとオーバーするんです。」
先輩:「何で扶養なの?」
私:「子どもがまだ小さいので。」
先輩:「私は子どもが小さい時でも正社員で働いてたよ?」
え?何かダメなんですか?
と聞き返したいけど、なんか怖くて聞けない。
そして私はいろんな言い訳を考える。
でも私が何を言っても納得しないので、いくつも言い訳を考えるけど、どれも正解じゃないみたい。繰り返し何度も同じ質問される。
『プライベートなんですけどー!』
と心の中で叫んでみる。
そのうち気付いた。
〔あなたの仕事、こっちに全部回ってきて迷惑なんだけど!〕
という先輩の心の声が聞こえてきたのだ。
「私も扶養を抜けて、ガッツリ働きます!」
というのが正解なのだ。
まあ、正解が分かったところで、私には無理な事なので、今後もまた同じ質問が繰り返されるのであろう…。
**
ある日、私のお弁当を見て、先輩は「なんか、おにぎりデカくない?野球のボールみたい。」
と言う。
違う日には「お弁当に手作りの焼きそば?この前はスパゲッティ?くっついて食べにくくない?」
また別の日には「揚げ物だけ?茶色一色って、栄養無くない?」
それから「カップヌードルとパン?アカンやつやん。」
『分かってますよー!でも私の弁当だから何食べてもいいじゃなーい!
あなたは私のお母さんですかー⁉︎』
とまた心の中で叫ぶ。
でもやっぱり本音を言えるはずもな「じ、時間が無かったので…。」
と言い訳したら、「ふ〜ん。」と納得してくれた。
あ、これは正解の答えなんだー。良かった、とホッとする。
*
先輩:「何で離席する時イスを中に入れないの?」
「何で開けたら閉めないの?」
「何で足りなくなったら補充しないの?」
「何で落ちてる物拾わないで素通りするの?」
…
『逆に、何でいつも質問形式なんですかー⁉︎』
***
ある日、私がトイレを終えた後、すぐ後に同じトイレに先輩が入った。
私が先に席に戻ってしばらくしたら、鬼の形相で先輩が戻ってきて、開口一番、
「トイレットペーパー!半巻だけ残すのやめて!」
と言ってきた。
私も流石に、自分のしでかした事に気付いた。
先輩が紙を使おうと思ったら、トイレットペーパーが芯の半巻しか残ってなく、しかも予備の紙も置いて無かったらしい。
「『うわー!すみませんでした!!!』」
これは、本当に心からそう思った。なので心を込めて謝罪する。
続けて、
「過去に、トイレットペーパーが少なくなったの見て、あと一巻きくらいかな?と思って使い切ろうと思ったら、かなり巻きが残ってて勿体ない事をしたのが何度もあったんです。なので、それからは自分の必要な分だけ使おうって決めたんです。」
と言い訳をした。
焦るとペラペラと言い訳するのだなと自分で思った。
その後またひたすらに謝って、許してもらってホッとしたら、
『先輩はどうやって拭いたのだろう…?どうやって出てきたのかな?』と気になった。
が、私が先輩にそんな事聞ける筈もない。
今日の就業時間の残りは、つい想像してしまい、込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だ。
先輩に気付かれたら、また言い訳を考えなきゃいけないのだから。
そして私の動揺が落ち着いたら、また心の中で叫ぶ。
『入る前にも確認しようよー!』
皆さんはトイレットペーパー、ちゃんと確認してますか…?
**おしまい**
先輩と私 ニ光 美徳 @minori_tmaf
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
授乳奮闘記/ニ光 美徳
★15 エッセイ・ノンフィクション 完結済 16話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます