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Nora
01話
「入りますよ……って、まだ寝ているんですか?」
最低でも八時間は寝られないと駄目なのに後輩はやる気がありすぎる。
でも、このまま寝ておくことは不可能になったから体を起こして挨拶をした、すると後輩も「おはようございます」と普通に返してくれた。
「ふぁ……今日はなんの用だ?」
「特にありません、ただ、朝ではないと会えないので来ました」
「中学生で放課後は部活もあるもんな」
ちなみに、友達の妹だから関われているだけだ、姉妹だから異性と関われていないというわけではないが。
着替えるためにとりあえず出てもらう、その他必要なことも済ませて部屋と家から出た。
「菅鷲、学校は楽しいか?」
「楽しいとかつまらないとか関係ありません、必要だから行くんです」
「お姉ちゃんにいてほしいって思うか?」
「いてくれたらありがたいですけど結局、頑張らなければならないのは自分ですから」
うーん……姉があんな感じなのに何故妹はこうなのか。
色々と聞いて吐かせておくことでせめてと考えて実行しているが意味がない。
「渡邊先輩はどうなんですか?」
そりゃ楽しいこともあるがそればかりではない、菅鷲みたいに答えておくことが一番楽なのかもしれない。
「悪い、俺も変わらないわ」
「ですよね、多分、みんな根本的なところは同じだと思います」
「でも、それは俺の話だ、俺だったら関わっている存在に学校生活を楽しんでもらいたい」
これもまた少し違うか、俺は一緒にいるときに楽しそうにしていてもらいたいというだけのことだ。
その状態を求めているのに学校でなんかがあったら叶わなくなる、だからそこから変えてもらいたいというわけだ。
「つまり私に楽しめと?」
「ああ、難しいか?」
「難しいですね、お姉ちゃんなら簡単でしょうけど私ですから」
「ま、俺が勝手にそう考えているというだけのことだから、ほら、中学校に着いたぞ」
「それではこれで」
当たり前だが特にテンションが変わったりもせずに高校に向かう。
朝練習がある菅鷲に合わせているから相当早いものの、開いているうえに教室にも普通に入れるから一切問題はなかった。
問題、トラブルに繋がらないだけで本当になにもない一日になるのがあれだが。
「峰、帰ろうぜ」
「おう」
彼女が菅鷲の姉である
大雑把で細かいことをほとんど気にしないのが楽でいい、起きる時間なんかも毎回違うかし、それで家にやってきたりはしないから巻き込まれることもない。
「最近寒いよな」
「ああ」
まだ十一月になったばかりでこれだからもっと酷くなるということだった、寒いのが苦手な彼女なんかは益々家から出なくなるはずだ。
そうすると一人の時間が増えるわけだが正直そこはどうでもいい、今更他者といられなくてぴーぴー喚く人間ではないのだ。
「だというのに紗良は全く気にした様子もなく出て行くんだ、逆に心配になるぞ」
「菅鷲なぁ、もう少しぐらい由良の真似をしてもいいのにな」
「無理だ、もうちょっと適当でいいと言ってもあれだからな、諦めろ」
「ちゃんと見ておいてくれよ」
「ま、あたしにできる範囲でなー」
どうでもよくなったのかすぐにどうこうなることではないと片付けたのか「おでんでも食おうぜ」と、積極的に金を使いたがるところも妹とは違う点だった。
合わせなくても不機嫌になるということもないが断ってまでしたいこともないから付き合うことにした。
「相変わらず美味いなこれは」
「だな」
だが、少しもったいない、どうせこの後、ご飯を食べることになるのだから我慢をした方がいい、作業的なものになってはいけないのだ。
「これを食い終わったらどうするんだ?」
「適当に時間をつぶすだけだな」
「あたしは付き合わないぞ、暖かい家でゆっくりするよ」
「はは、そうかい」
というわけですぐに別れて大人しく家には帰らなかった。
体力には、寒さ耐性には自信があるから適当に歩いて過ごす、家が嫌いというわけではないがこちらの方が菅鷲姉妹なんかよりも外にいたい派となっている。
しかし、自分の行ける範囲ではもう新鮮さがなにもない、こういう点では誰かがいてくれた方がいいし、自由にできるからいない方がいいかもしれない。
「なんでいないの……」
「菅鷲」
なるべく驚かせないように背後から話しかけたりはしなかった。
「あっ、どこに行っていたんですか?」
「適当に歩いていただけだ、それより暗いのに外に理由もなくいるなよ」
俺がいなかったせいで外に長時間いることになって風邪を引いたということならこちらに原因があるということになってしまうのか? でも、約束をしていたわけではないから彼女が勝手にそうしていただけという見方をしてくれるかもしれない。
もっとも、そのときによって変わるから判定するであろう由良にも期待はできないのが残念だった。
「あなたのせいですけどね、上がらせてもらってもいいですか?」
「いいけど遅くまでいるのは駄目だぞ」
「もう十分遅いです、二十時を過ぎているんですよ?」
「じゃあ鍵を使って上がっていればよかったのに」
普通に毎日帰ってくるくせにやたらと心配性で変なことをしたのだ、由良も断ってくれればいいのににやにやとやらしい笑みを浮かべて「任せてくれよ」なんて言ってしまったものだからこうなっている。
「お姉ちゃんがあなたのお母さんから任されただけではないですか、私が使うのは駄目なんですよ」
「朝――」
「い、いいから早く開けてください、寒いです」
母も母で早めの時間から出社できて早めの時間に退社できる会社に変えた方がいい、なんて働いていないから簡単に言えるだけか。
「いま温かいの用意するから」
「ありがとうございます」
「でも、どうしても今日じゃなきゃ駄目だったのか? それこそ両親が心配するだろ」
何故か中学生二年生になってから多く来るようになった、それまでも由良の妹とということで関わりはあったがここまでではなかった、由良の家に行ったときに挨拶をするぐらいと言えば分かりやすいと思う。
だというのに急にこれだ、逆に小学生と中学一年生のときはなんだったのかと、どこに差があるのかと言いたくなる。
「あの、あなたが十八時ぐらいに大人しくしてくれていればこんな時間には――」
「はいはいはい、延々平行線になるからやめよう」
「すみません、少し調子に乗りました」
「いやいいけどさ、ただ年上としては心配になるわけでさ」
その気があるなら休みの日に来ればいい、そうしたくないからこその行動ということならこちらは仕方がないと片付けるしかない。
まあ、いくらごちゃごちゃ言おうと嫌ではないからだ、俺は他者を遠ざけるような人間でもないから当たり前だが。
「はい」
「温かい……」
そりゃあな、十分でも外にいれば体は冷えるからな。
「今日、由良とコンビニでおでんを食べたんだ、今度、菅鷲も食べないか?」
今日は言い方をミスする日のようだった、正しいのは「菅鷲も食べてみたらどうだ」だ。
俺の方にはなにもなくても相手がどう感じるかは分からない、これを見ている人間も同じで中には後輩と積極的に一緒に過ごそうとしているように見えるかもしれない。
勘違いをされてしまうのはみんなが俺というわけではないから仕方がないが、少なくとも菅鷲に迷惑をかけるようなことにはならないようにしたかった。
「いいですね、それなら土曜日のお昼によろしくお願いします」
「意外だな、誘った俺もあれだけど受け入れてくれるとは思わなかった」
のはずなのに早速、やらかしてしまったことになる。
彼女も断ればいいのに、というか、前は躊躇なく断っていたのにこの差はなんだ。
「そうですか? おでんは好きですよ」
「無駄遣いをするなーって前は断ってきたぞ?」
しかも冷たい顔で、夏だというのに、耐性があるのに寒くなったぐらいだ。
「そのときはお金がなかっただけです」
「そうか、じゃあ昼になったら菅鷲の家に行くよ」
昼までは掃除なんかをして時間をつぶそう、外に出るとまたうっかり夜に、なんてことになりかねないから頑張って屋内で過ごす。
じっとできないわけでもないから大丈夫だ、少なくとも約束をしているのであればちゃんと守る。
「はい、部活があるので少し遅れるかもしれませんが急いで帰ります」
「俺は待つことになっても構わないからゆっくりでいい、急いで怪我に、なんてなったら嫌だからな。あと、おでんを食べた後はどうする?」
俺としてはそれであっさり解散になってもそうでなくてもどちらでもよかった。
時間を無駄に使わせるのは申し訳ないとかそういうのでもない、とにかく自由に選択をしてほしい。
「いま行きたい場所は文房具が買える場所ですかね、ボールペンの替え芯が欲しいです」
「分かった、行きたいところがあったらその後のことも考えておいてくれ、菅鷲が満足するまで付き合うよ」
「分かりました」
よし、これで今日は満足できただろう。
「じゃ、そろそろ帰らないとな」
「む、そういうところは不満です」
「そう言ってくれるな、これ以上は流石にな」
ぶつぶつ言っている彼女の腕を掴んで外に出る、すると「よう」と由良が立っていた。
「返すよ」
「紗良のために来たわけじゃないけどな、ただ暇だったからだ」
「夜に出歩くな、危ないだろ?」
「ま、紗良も帰るみたいだから大人しく帰るよ」
姉妹は仲良く会話をしながら歩いている。
この二人が合わされば簡単には潰れてしまわない最強の人間が出来上がる。
だが、意識をして変えようとしなければそんなことにはならないことも分かっているし、偉そうに言えるような立場の人間でもない。
「お姉ちゃんが迎えに来てくれて嬉しい」
「だからそういうのじゃないって言っただろ、たまたまだ」
「でも」
「違う違う違う」
こっちは素直じゃないな。
無駄に抵抗をしようとする意味が分からなかった。
「お疲れさん、はい、さっき買ったんだ」
「ありがとうございます」
「待っているから昼ご飯を食べたいなら食べてくればいい」
タイミング的には別れる前におやつ的なそれで食べるだろうから部活で疲れたいま、ちゃんとご飯を食べておくべきだ。
基本的に複数枚服を着ていて細かく分かっているわけではないが細いからというのも影響している、この点は姉妹でそっくりだったりもする。
でも、そういう気分にならないと姉の方は食べてくれないからせめて妹にはという狙いがあった、本当は後輩だからと態度を変えるのはよくないがな。
「あ、それなんですけど、おでんじゃなくてなにか食べに行きませんか?」
「俺はそれでもいいぞ、今日は全部合わせる」
「少し待っていてください」
意外だったのは寒がりの姉も出てきて参加するということだった。
「紗良、持ってやるよ」
「ありがとう、だけど大丈夫だから」
「そうか? じゃ、飯を食いに行こう」
一つ残念な点は姉がいるときは妹の方が遠慮を始めるということだ。
一応、そういうことがある度にちゃんと吐かせるようにしているものの、効果がないまま終わることも多い。
「ここがいい」
「あいよ、峰もいいか?」
「おう」
案内された席に座ってふと前を見てみると姉妹ではなく姉しかいなかった、理由を聞いてみると「デリカシーがないな」と答えてくれたが……。
「今日はどうしたよ?」
とりあえず話を逸らしていく。
「なんだ、あたしがいたら駄目なのか?」
「別にそういうのじゃない、だけどいつもなら誘っても家にいるところだろ?」
「妹に変なことをされても困るからな」
「するかよ、好きになったら一生懸命に動くけどさ」
「じゃあ好意を抱く前に邪魔をしまくるぞ」
その割には妹が戻ってきてからは口数も減っておかしかった、頼んだ料理が運ばれてきたというのと、食べている途中だからというのもあるだろうがきっとそれだけではない。
こういうやり方を選んだのだ、となると、学校での時間がもっと微妙なものに、とはならない。
そもそも止めてくれるということならそれほどありがたいことはない、妹が急に変わって困っているのはこちらもだからだ。
「ごちそうさまでした、美味しかった」
「だな。さ、ボールペンを買いに行くか」
「替え芯、ね」
「細かい」
変なところでやる気を出そうとするのは昔から変わらない。
ささっと行動させることでこの時間を早く終わらせようとしている、別に俺のことが嫌いというわけではないだろうがそれとこれとは別というやつなのだろう。
ならこっちも合わせないとな、この姉妹が仲良くできるのならそれでいい。
「峰、これおすすめだぞ、軽くていいんだ」
「軽すぎると疲れないか?」
みんなが持っていると言っても過言ではないぐらいのシャーペンを使ったことがあるが俺的には軽すぎて駄目だったという経験がある。
これは大丈夫だろうか、持ってみた感じではそれと似たような軽さだが。
「んーそこまでじゃないぞ、適度な重さってやつだ」
「へえ、買ってみようかな」
「値段もそう高くないし買ってみてもいいんじゃないか」
「じゃあ買うよ、せっかく来たし、由良がそう言ってくれたんだからな」
これで二人と行動をしたことの価値が上がった。
会計を済ませて妹のところへ行くとやたらと難しい顔でペン本体を見ていた。
「替え芯が欲しいんじゃなかったのか?」
俺や姉なら分からなくもないが妹でもこうなるとは、やはり店とは恐ろしい。
所持金次第で長考することになる、そして無駄に高い物を買ってしまったりするまでが基本ではないだろうか。
「この際に変えてみようかなと思いまして」
「慣れた物の方がいいんじゃないのか? だからこそ替え芯を買いに来たんだろ?」
「やっぱりそうですかね、私もそうやってすぐに終わらせようとしたんですけど……」
こりゃ駄目だ、もう負けかけている顔だ。
となれば、これ以上の否定みたいなものはいらないだろう、彼女からすれば背中を押してほしいのだ。
「ま、気になってしまったのなら仕方がないな、一回だけ試してみたらどうだ?」
「そうします、買ってきますね」
当たってよかった、幸い、異性関連のことで選択ミスをまだしていないのがいいことだと言える。
「悪い奴め」
「はは、結局、自分次第だからな」
「確かに、悩んでいるときにそんなのいらないと言われても拘りたい点もあるからな」
「何回も経験があるよ、そして何回も後悔してきた」
「次に活かせないとなー」
今日はどうしても荷物を持ってやりたいみたいでまたそのことを話して振られていた、姉の方は少しシスコンなのかもしれない。
ちなみにこれで解散にはしないらしく次の場所に向けて妹の方が歩き出した、目的地がどこかも分からないから少しわくわくしている自分がいる。
「ここね」
「待った、今日は峰もいるんだぞ?」
姉がいたからこその結果だ、でも、姉が悪いわけではないから他の場所で時間をつぶそうと思う。
「あっ、べ、別にそういうわけでは……」
「待っているから行ってくればいい、俺はそこの店にいるから」
「す、すみません……」
いても問題ない店が近くにあって助かったぜ。
むくむくと出てきたこれなら買える、これを買ったら楽しめるかもしれないという汚い欲をなんとか抑えて待っていると姉の方が現れた、妹の方はまた悩んでいるらしい。
「ちょっと抜けているところがあるよな、そういうところも可愛いんだけどさ」
「可愛いで済ませていいのか?」
「中学で同じようなことをしたら男子が変な性癖になりそうだよな」
「おいおい、面白がっていないで止めようぜ」
やる気がなくなったか、この場合はなにかが起こっても「面白そうだからいいだろ?」で済ませてしまうようになるから困る。
誰か他の妹と仲のいい男子でもいてくれればいいのだが残念ながら知っている人間はいないし、多分、聞いても教えてくれないと思う。
年頃だからな、色々な大事なことを姉や家族にだって隠して過ごしてしまう。
「でも、峰も男子だ、あのままならちょっといいかも、なんて考えなかったか?」
「ないよ、ほら、来たぞ」
「ふっ、そういうことにしておいてやるか」
しておいてやるかではなくて止めてくれよ。
幸い、似たようなミスを短時間でするような存在ではないからその後も楽しく過ごせた。
ただ、一応誘ったのはこちらなのに妹と全く喋ることができなかったことが少し微妙な点だった。
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