いいわけを重ねたところで……。

三愛紫月

私達の関係

「私、赤ちゃんできたの!」


学生時代から、私が好きだった人を奪ってきた幼馴染みの宮森亜由美みやもりあゆみは私に笑ってそう言った。


「よかったね」


口に出しながらも、心の中は死にたくなるほど泣いていた。


だって……。


「亜由美とは、別れるから……結婚しよう」


坂野優斗さかのゆうとからのプロポーズを受けたのは昨夜の出来事だったから……。


「優斗にはね。今朝、話したばっかりなの」


「そうなんだ」


私は、あゆを見つめていた。


私は、高校の頃から優斗が大好きだった。


そんな気持ちを親友のあゆにだけは話していた。


なのに……。


「理恵子、私ね。坂野優斗と付き合ったの」


嬉しそうに笑っているあゆを見つめながら、親友とは一体なんなのかがわからなくなっていた。


私の名前は、武藤理恵子むとうりえこ

今年で、40歳を迎える。


私は、優斗と交際して8年だった。


くっついたり別れたりを繰り返していたあゆと優斗が大喧嘩して、完全に別れたのは二十歳の時だった。


私は、あゆには話さずに優斗と友人関係を続けていた。


多分、あゆは今も私が優斗と友人でいる事を知らない。


私と優斗が友人になったのは、成人式の出来事だった。


「あっ、あの。武藤だよな」


そう言って声をかけてきたのは、いつも優斗の隣にいた柏木陽平かしわぎようへいだった。


「柏木君、久しぶり」


「久しぶり。武藤変わらないな」


「変わるよ」


何て、言葉を交わした後で連絡先を交換した。


そして、その一週間後、陽平から連絡がきて、私達は飲みに行く事になった。


そこにやってきたのは、優斗だった。


「あれ?柏木君は?」


「陽平、遅れるって」


「そうなんだ」


「うん。先に飲んでてって」


「わかった」


私の優斗への気持ちは、まだくすぶっていたけれど……。


私は、自分の気持ちを気にしないようにしていた。


そんな私に優斗が、「連絡先を教えて」と言ってきたのだ。


この日、陽平は現れなかった。


酔っ払った私達……。


目覚めた天井には、何故か鏡があった。


私は、慌てて起き上がった。


「うーん。おはよう」


「おはようじゃないよ」


「昨日は、楽しかったね」


私は、優斗に抱き締められた。


私達は、この日から付き合う事になったのだ。


私は、優斗と付き合った事をあゆには言わずにいた。


「優斗とやり直したい」あゆは、よく泣いていたけれど……。


私は、気にせずにいた。


「優斗とやり直したの」


三年前、キラキラと笑顔を浮かべなからあゆが話した言葉に私は驚いていた。


「優斗、あゆとやり直したって本当?それって、私と別れるって事だよね」


「理恵子、ごめん。やり直せないなら死ぬって言ってくるから……。ちゃんと亜由美とは別れるから、別れないでくれ」


私は、優斗に頭を下げられて許してしまった。


だけど、優斗は別れられなかった。


「聞いてる?理恵子」


「うん」


「40歳でママになるんだよ!凄いよねーー」


あゆは、嬉しそうに笑っていた。


「よかったね」


適当に相槌を打って、私は帰宅した。


家に帰宅した瞬間だった。


「理恵子」


玄関に入ると優斗に抱きつかれた。


「なに!離して」


私の言葉に優斗は、さらに私を抱き締めてきた。


「何よ、優斗」


「結婚しよう」


「はぁーー?」


一夫多妻制でもない、この国で何を寝ぼけた事を言ってるのと思った。


「無理に決まってるでしょ!」


「無理じゃないよ。籍はいれられなくても、結婚しよう」


「私だって、お母さんになりたいの」


「子供も作ろう」


「簡単な事言わないでよ!私、一人になるでしょ?」


「一人にならない」


ピンポーン


ピンポーン


優斗の言葉が終わった時にインターホンが鳴った。


優斗は、私から離れて玄関を開ける。


「陽平……」


「優斗から話は聞いた。俺と結婚しよう」


「何を言ってるの?」


「理恵子、それが一番だって」


私は、陽平と優斗からこれからの話をされた。


あの日から、一年が経った。


「理恵子、出産おめでとう」


私は、41歳でママになった。


「柏木君、喜んでる?」


「うん、凄くね!あゆは?」


「優斗は、全然だよ!帰ってくるのも遅いし、子供を構ってもくれないし」


「大変だね」


「そうなんだよね。でも、離婚なんて出来ないでしょ……。だからね」


あゆは、そう言いながら悲しそうに目を伏せている。


「じゃあ、私帰らなきゃ!」


「うん!ごめんね。愚痴っちゃって」


「いいよいいよ!気にしないで」


私は、家に帰宅した。


「お帰り、理恵子」


帰宅すると優斗は、私を抱き締めてくれた。


「ただいま」


奥の部屋から、陽平が現れる。


「理恵子、お帰り!優平、お風呂にいれようか?」


「うん、お願い」


陽平は、優平をお風呂に入れてくれる。


「理恵子、亜由美は何か言ってた?」


「帰りが遅いとか子供を見てくれないとか……」


「そっか」


「優斗、早く帰らなくていいの?」


私の言葉に、優斗は私を抱き締めてくれる。


「早く帰って、俺は亜由美と何を話すんだ?亜由美はね、いつも俺に何で遅いのかとか聞いてくるんだよ。ダラダラと言い訳を重ねると亜由美は、だんだん怒るんだ。俺は、それをずっと聞かされるんだよ」


優斗は、うんざりそうな顔をしていた。


「結婚したのに、そんな事言ってたら駄目だろ?」


お風呂から上がってきた陽平は、優斗に声をかけた。


「別にしたくてしたわけじゃない」


「わかってるけどさ」


私は、二人を見つめながら話す。


「どんな言葉を並べたって私達三人の関係は理解などされないのよ」


私の言葉に、二人は頷いていた。


あの日、私は二人からこれからの話をされたのだ。


「陽平と理恵子が結婚して、理恵子には俺達の子供を産んで欲しい。

それで、俺は毎日二人の家に遅くまでいる。それから、亜由美の元に帰る!それで、どうかな?」


「俺は、それでいいよ!」


陽平は、迷うことなくそう言った。


私達は、あゆにだけバレないように生活をしている。


あれから、一年が経った。


私は、二人目を妊娠したのだ。


「おめでとう!陽平、やったな」


「ありがとう、優斗」


二人目は、確実に陽平の子供。


「理恵子が二人目妊娠したって知ったから、亜由美が毎日鬱陶しくてさ……。色々、言い訳するの大変なんだよ!早く離婚したいわ」


「それは、あゆはしないわよ」


「わかってるから、キツいんだよ」


「亜由美ちゃん、独占欲強そうだもんな」


私達は、晩御飯を一緒に食べる。


いつか、優平が大きくなった時、何て言えばいいのだろうか?


私は、今からその事だけを考えている。


「じゃあ、今日もお疲れさまでした」


「お疲れーー」


私は、この先もこの事を親友には言うつもりはない。






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