なぜか私が連勤開けの日に限って私のおやつを食べる彼女

下等練入

第1話

 仕事から帰ってきて冷蔵庫を開けると、朝あったはずのプリンがない。

 今日で10連勤開けるから楽しみにしてたのに。


「ねえ私のプリンは」


 そう冷蔵庫を覗きながら呟いた瞬間、背後から下手糞な口笛が聞こえてくる。

 しかも取って付けた様に棒読みで「あ、私お風呂でも洗ってこようかな」と言い出した。


「れ、い、な~」

「な、なに円香まどか? 私ちょっと用事が……」


 私はそう言ってどうにか部屋から出ようとする玲奈れいなの手を無理やり掴むと、その場に正座させる。


「私に何か言うことない?」

「なにかって言うと……、例えば?」


 彼女は目を思い切り泳がせながらそう返してきた。

 座らせても、常に手を動かしてものすごくばつが悪そうだ。


「例えばそうだね、冷蔵庫のプリンについてとか?」

「あーあれは……、賞味期限が切れてた気がしたから……」

「ふーん切れてたね」


 ゴミ箱の上を見ると不用心にも、プリンの蓋がそのままの形で置かれていた。


「賞味期限明後日なんだけど?」

「なら日付読み間違えたかも知れない……」

「私昨日『食べないで』って言ったよね」

「……言いましたね」


 そう言ったきり玲奈は石のように押し黙ってしまった。


(別に限定のお菓子とかではないから食べるのは構わないけど、買い直すとかはしといてよ)


「もういいよ、ほら買いに行くよ!」


 そう言って私は彼女にジャケットを投げ渡す。

 なんか独りで買いに行くのは嫌だけど、軽いデートついでに買いに行くと思えばそこまで腹も立たない。


「え、いいの?」


 そう言った彼女はさっきからは想像できないくらいの安心しきった笑みを浮かべている。


「玲奈に買ってもらうからね」

「いいよ、行こう!」


 素早く袖を通すと、玲奈はさっさと外に出て、こちらに向かって手を振ってる。


「円香早くー」

「ちょっと、気が早いって」


 慌てて靴を履くと、握れと言わんばかりに伸ばされた玲奈の手を掴む。


「ねえ、玲奈が私のおやつ勝手に食べて一緒に買いに行くのってこれで何度目?」

「覚えてない!」

「そんな堂々と言わないでよ」

「けど、二人で一緒に出掛けるのは11日ぶりってのは覚えてるよ」


 彼女は私の腕をぎゅっと掴みながらそう言ってきた。


(そう言えば、前食べられた時も連勤開けだった気がする)


「ねえ、玲奈が私の食べる理由って一緒に出掛けられるからじゃないよね?」

「えー知らないー」


 その質問に答える彼女の顔は、街灯が逆光になって見ることができなかった。

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なぜか私が連勤開けの日に限って私のおやつを食べる彼女 下等練入 @katourennyuu

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