俺は彼女に期待してもいいかな。感違いかもしれないけど。

夕日ゆうや

アイドルのあの子と一緒に相合い傘!?

 俺の人生はいいわけばかりだ。

「ねぇ、さとる。一緒に帰ろ?」

「え。いや、ええ……」

 クラスのアイドルである時任ときとうしおりが長い髪を耳にかき分けて、訊ねてくる。

 アイドルに目をつけられた俺。何をした?

 裏があるはずだ。

「ダメ……?」

「い、いや、いいぞ」

 俺は慌てて鞄に荷物と突っ込むと、立ち上がる。

「いこうか?」

「うん!」

 とびっきりの笑顔を見せてくれる栞。

 外を見るとどんよりとした曇り空。

「雨降る前に帰らないと、だね」

 栞は少し残念そうに呟く。

 しかし、俺にも春が来たか。

 そのお相手がまさかの栞になるとは思わなかった。

 綺麗な茶色の瞳に、黒髪ロング。おしゃれな髪飾り。

 背丈は俺よりも少し小さい。

 ポツポツと雨が降ってきた。

「ありゃ、わたしは折りたたみ傘あるけど……」

「もっていないよ」

「じゃ、一緒に入ろうか?」

「いや、まあ……」

 戸惑いながらも、一緒の傘にはいる。

「家、近いの?」

「その先の角を曲がってすぐだ」

「ふふ。良かった」

 これは帰るのが早くて良かったという意味だ。

 きっと栞も早く離れたいのだろう。

 俺はそう思い、足早に家にたどり着く。

「今度遊びにいくね!」

「え」

 そんなはずがない。これでもしアイドルの栞と付き合えるなら――。

 垂涎ものだ。

「そうだ! 連絡先教えてよ。これからは必要でしょ?」

 必要。

 なんに必要だと言うのか。まるで俺のことが好き、みたいじゃないか。

 そんなことはあり得ないというのに。

 やっぱり俺はこれに裏があるんじゃないかと思える。

 例えば罰ゲームで一緒に帰ることになった、とか。

 無事連絡先を交換すると、俺は口を開く。

「ごめんな、キモくて」

「ホント最悪。裕太ゆうたくんと仲いいから近づけると思ったのに」

「え……」

 こうして俺の勘違いは終わった。

 いや、別に期待していたわけじゃないし! と無意味ないいわけをするばかりだった。

「ま、相談には乗ってくれそうだものね。よろしくね。悟」

 そんなバカな。

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俺は彼女に期待してもいいかな。感違いかもしれないけど。 夕日ゆうや @PT03wing

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