【KAC20236】水玉7万 外れ無し

天猫 鳴

よっしゃ! 特別ガチャ引くぞ!

 ビギナー冒険者のショウルは13歳。

 彼はいま意気揚々とギルドセンターへ向かっていた。これまでコツコツと集めてきたピースは7万個。小さなピースはショウルが歩くたびに袋の中でシャリシャリと軽やかな音を立てていた。


(今日こそはガチャだ!)


 水玉の形をした雑魚モンスターを狩って狩って狩りまくって7万匹。切られたあいつらが落とすピースを邪魔に思いながらも大事に集めた。それもこれも特別なガチャを回すため。


 水玉7万ガチャ。それは冒険者どころか一般人にも知られる外れ無しのお得ガチャで「ご褒美ガチャ」と呼ばれていた。



 余談だが。

 冒険者でなくても腕っぷしの強い男なら水玉モンスターくらい殺せる。そして、一般人でもピースを持っていればギルドセンターでガチャを引くことができるのだった。



 ショウルは7万という数字に腰が引けていたけれど、実際にガチャをしたという人から直接聞いたらわくわくが止まらなくなった。なんと星5の特別な剣が当たったと聞いたのだ。

 星5といえば上級者が挑めるクエストですらゲットできるかわからないレアな武器だ。


「やるっきゃない!」


 少々邪魔だったけれど頑張って集めたこのピースとも今日でおさらば。


 ドアを勢いよく開けてセンターへ入っていった。そしてピース入りの袋をカウンターに置く。受付のお姉さんは袋のサイズを見てにっこりと微笑んだ。


「水玉7万ガチャですね?」


 お姉さんは大きく頷くショウルに笑顔を振りまき「確認させてもらいまぁす」と袋をピースカウンターの上へひっくり返した。カラカラと小気味良い音を立ててピースが落ちていく。表示された数字が気持ちよく増えていき、ちょうど7万に到達して止まった。


「はい、確かに7万ピース受けとりましたぁ」


 お姉さんがカウンターの向こうでしゃがみこんで姿が一瞬見えなくなり、ひょこっと立ち上がった。その手にあるのはいつものガチャと代わり映えのしないガチャの機械だった。


「それが?」

「はい」

「特別なガチャ?」

「はい」


 福引きのガラガラに似た物を前に、お姉さんはどこまでもにこやかだ。


「引けるのは1回だけですよ。はい、どうぞ」


 ショウルの前に置かれたガチャを見て、面白いイベントが始まったとばかりに周りの冒険者たちが集まってくる。

 筋肉隆々の猛者たちに囲まれ注目を浴びて、ショウルはどきどきと取っ手に手を伸ばした。男たちの視線がショウルの手に集中して緊張感が増す。


 心のなかで「よしっ!」と活を入れてショウルは勢いよく回した。



 カン、カララ、コロンッ!



 ひょっこり飛び出した玉が跳ねて転がりぶつかって動きを止める。固唾を飲んで見つめる先に見たこともない真っ黒な玉が転がっていた。


「・・・・・・これ、なに? 凄いやつ?」


 期待と不安の入り交じった表情でお姉さんを見つめる。


「あぁ、まぁまぁ」


 お姉さんは苦笑いだ。集まっていた男たちも小さくため息をもらしてショウルの周りから離れていった。


「え? なに? なんで?」


 皆の様子がおかしい。なぜそんなに落胆したような顔をするのか。


「僕・・・・・・ごめんね」

「なに?」

「これ、アンラッキー7」

「ん? アン、ラッキー?」


 お姉さんがすまなそうな顔でショウルの目の前に引き当てたものを置いた。


「でも、使いようによっては良い物だから、うふっ」


 残念さを消そうとするように、お姉さんは取って付けたような笑顔を振りまく。


 ショウルと向かい合うように置かれたそれは、頭に尖った触覚が二つ付いた頭でっかちの黒い小鬼だった。2頭身の可愛いぬいぐるみ。それ以外に特徴が無さそうに思えた。


「これを使うと悪いことが起こるの。捨てると災いが起こるって言うし・・・・・・持ってるしかないかなぁ~」


「使いようによっては・・・・・・とか言ったくせに」


 お姉さんは愚痴るショウルの頭を「よしよし」となでて、ショウルはその手を払った。


「お腹を押すと取説しゃべってくれるから、上手く使える方法考えてみて。ねっ!」

「ふ~~んんん・・・・・・ッ!」


 苦笑いするお姉さんを無視して小鬼を睨み付ける。

 短い足を投げ出してこちらを向いて座っている小鬼。意地悪そうにギザギザの歯を見せて笑っている。


(どうしてこれなんだ? せめて星3とかッ、じゃなかったら回復系グッズとかッ!)


 頑張ってピースを集めた日々が恨めしい。それなりに経験値は貯まったけれど、それにしても地道だったし無限収納カバンを持っていないショウルにはピースが邪魔でしかなかった。


「こんなの嫌だぁ! あ‘’────ッ!」


 癇癪かんしゃくを起こすどころか体から力が抜ける。一緒にやる気も抜ける。辛うじて人前で泣かずに済んだものの、ショウルは叫ぶしかなかった。




 水玉7万、外れ無し。

 黒い小鬼が実は優れものだったと気づくのに2年。

 嘘みたいに細々とした運の悪いことが続いた。全部こいつのせいだと思えて憎らしいけれど、災いが起こると聞いては捨てるに捨てられない。

 しかし、全ての悪運が次々と連なった先に最強のチャンスが待っていた。小鬼を有効活用できる最良のチャンス。その瞬間に出くわすのに小鬼を手にしてから5年かかったのだった。



 え?

 黒い小鬼がどう使えるかって?

 それは、機会があればその時にでも。






□□□ おわり □□□



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【KAC20236】水玉7万 外れ無し 天猫 鳴 @amane_mei

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ