アンラッキーデイ
マフユフミ
第1話
靴ひもが切れた。
お気に入りのデニム地のスニーカー。
何か決めなければいけない日、頑張ろうと思いたい日は絶対この靴を履いていた。
仕方ないから少し慣れていないパンプスを履くことにした。
外に出ていきなり鍵を落とした。
コンクリートのところじゃなくて、昨日の雨のせいでドロドロにぬかるんだ水溜まりの上。
ポケットティッシュを出して、なんとか泥を拭った。イヤだったけれど、時間がなかったからそのままポーチにしまった。
電車に乗り遅れた。
改札をくぐって、階下のホームまでダッシュ。それなのに無情にもドアは目の前で閉まった。
余裕をもって時間を決めていたから次の電車でもなんとかなることは分かっていたけれど、目の前で逃したというのがショックだった。
痴漢にあった。
繰り返し繰り返し捲られて行くスカートが腹立たしくて、それでも混んだ社内でその不届きな手を払うこともできず、モヤモヤしたまま時間をやりすごした。
駅の階段で足を捻った。
パンパンに腫れるような捻挫じゃなかったけれど、地味に痛みが続く。
目的地までまだ歩かなければならないのに、慣れないパンプスを恨んだ。
待ち合わせ場所にたどり着くまで散々迷った。
初めての場所。天性の方向音痴。
忙しそうな人並みを遮ることもできず、道を尋ねることもできない。
スマホとにらめっこしながらなんとかたどり着いたときには、もう汗びっしょりになっていた。
待ち合わせ相手に遅刻された。
必死の思いでたどり着いたというのに、相手は軽い「ごめんね」の一言で一時間も待たされることになった。
汗が冷えて気持ち悪い。
なんとなく割りきれない気持ちでぼさっと一時間過ごした。
ついに待ち人が現れたとき、彼は右手に何かを持っていた。
少し汚れた四つ葉のクローバー。
「ラッキーのおすそわけ」なんて、今日の私のアンラッキーと比べてあまりにも軽い。
腹が立ったから、グーでおなかを殴ってみた。そして、なぜか分からないけれど流れてきた涙を見て、彼はほっぺたにキスをした。
アンラッキーデイ マフユフミ @winterday
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