悪役令嬢に転生したらヒロインが前世の友人だった推しが被っているので王子様をシェアします

猫月九日

第1話

「セレラタス大丈夫か?」


「ええ、大丈夫ですわ」


 オータムル王子からの声かけにセレラタスが答えた。

 そう答えるセレラタスだが、表情は暗い。

 そんな彼女のことをオータムルは心配していた。

 なにせ、


「これから討伐しに行くのは、魔女とは言えそなたの妹なのだ。残っても良かったのだぞ?」


 セレラタスの双子の妹のクローランサスは先日、正式に国に魔女と認定をされた。

 魔女とは魔法使いの中でも、禁忌魔法に触れた魔法使いの女性を指す言葉で、国にとっては邪悪な存在であると同時に討伐の対象となっている。

 そんな魔女に妹が指定されたのだ。セレラタスの心情は計り知れない。

 それにセレラタスとオータムルは恋仲である。その彼女を戦場へ連れ出すことにオータムルは何度も反対をしていた。

 それでも、彼女はその討伐部隊の一員になることを拒絶しなかった。


「あの子の苦しみを私はわかってあげられませんでした。せめてその最後を見届けるのが私の努めなのです」


「しかし……」


「大丈夫です。それに、魔女を討伐するのには、聖女である私が必要でしょう」


「それはそうだが……」


 双子の妹が魔女認定されているのと同様に、姉のセレラタスは聖女と認定されていた。

 聖女とは聖なる魔法を使いこなす、神の使者と呼ばれている。国にとっては国を守る要となっている。

 聖女はその特性上、魔女に強い。

 それが双子の妹であっても、いや、双子の妹であるからこそ、セレラタスは今回の討伐に真剣に取り組んでいた。


「……わかった。もう何も言うまい。さぁ、この先にいるはずだ」


 セレラタスの表情を見たオータムル王子はそれ以上何も言うことなく足を進めた。

 魔女がこもっているとされる洞窟までは後少し。

 総勢20名にもなる魔女の討伐部隊の隊長として、聖女であるセレラタスを無事に送り届けることこそが自分の役割であった。



「ようこそいらっしゃいませ、オータムル王子」


 洞窟の最奥で魔女クローランサスは待っていた。


「あらお二人だけですの?もっとたくさんいらっしゃると思って、歓迎の準備をしていましたのに」


「くっ……、あれだけの罠と骸骨兵を用意しておいて、何をぬけぬけと」


 オータムル王子は、悔しそうに睨む。

 ここにたどり着いたのは、オータムル王子とセレラタスの二人だけだった。

 あまりにも多くの敵の数に、二人以外は為す術もなくやられていった。

 それでも、二人がここにたどり着いたのは。


「それにわざわざ私達は襲わないようにして。いったいどういうつもりだ!」


 大勢いる骸骨兵はなぜか二人だけは襲うことがなかった。

 それはつまり、クローランサスが二人を招いているということに他ならない。


「元々、オータムル王子とはお話するつもりでしたので」


「こちらには話すことなどない!」


 にこやかに微笑むクローランサスにオータムルは怒鳴って返す。


「部隊を失ったのは痛いが、私だけでなく、セレラタスまで招いたのは失敗だったな!」


 ここに至るまでに、仲間は多く失ったが、まだ最後の希望である聖女が残っている。

 愛する彼女さえいれば、魔女討伐もできる。

 そう、セレラタスは王子の最後の希望だった。


「……そう、やっぱりあなたもお気づきにならないのですね」


 クローランサスは悲しそうにつぶやき、そして笑う。


「何がおかしい!」


「あなたの愛しい聖女様は本当にあなたの後ろにいる方ですか?」


「何!?」


 クローランサスの言葉に後ろを振り向く。セレラタスは、薄く微笑んでいる。


「……ふふっ」


 その表情は今までに見たことのないくらいな暗黒だった。


「やっとここまで来ましたわね」


 セレラタスが言いながら、クローランサスに寄っていく。

 横を通り過ぎる彼女の表情は聖女というよりも完全に魔女のものだった。


「セ、セレラタス?」


 あまりの展開にオータムル王子はついていけない。

 セレラタスはクローランサスの隣に並び、王子に振り返る。


「私が魔女クローランサス」


 さっきまで後ろにいたはずのセレラタスが自分の名前を告げる。


「そして、私が聖女セレラタス」


 もう一人も自分の名前を告げた。


「「私たちは二人で一人」」


 二人は服装こそ違えど、全くの同じ顔だった。




 二人が違和感に気がついたのはほぼ同時だった。

 仲の良い双子の姉妹として、国の中でも有数の貴族の元に生まれた、当たり前のように国立魔法学園に入学することになった。

 二人仲良く、初めて魔法学園の前に立った二人が感じたのは既視感だった。

 ここには、初めて来たはず。それなのに、まるでここに通ったことがあるような気がする。

 隣を見ると、自分と同じ表情をしている片割れがいる。

 そして、違和感を抱えたまま、門を通り過ぎた時。

 二人は同時に思い出した。


 自分が地球という星の日本という国に生きていたこと。

 そして、これが自分が好んだゲームと全く同じ世界であるということ。

 つまり、


「「異世界転生?」」


 二人は同時につぶやき、聞こえてきた声に驚いて、顔を見合わせた。


 入学式を前に、二人は話し合うことにした。

 その結果、わかったのは、二人共日本出身であること、同じ歳であったこと、同じ県、市に住んでいたこと、同じ学校の同じクラスに通っていたこと。

 それが意味するところは、


「あれ?ひょっとして〇〇?」


「そういう、あなたは〇〇?」


 お互いを指さし合って確認する。

 同じクラスの同じオタク仲間、そう二人は前世でも友人だった。


 ひとしきり驚いた後、確認をする。


「これからどうしよう……」


 つぶやいたのは、姉のセレラタス。


「これから、クローランサスは闇の魔法が示されて、迫害されちゃんだよね……」


 セレラタスは聖の魔法が確認され一方で、クローランサスは闇の魔法が確認される。

 それによって二人の道は別れ、姉が多くの人に愛される中、妹は腫れ物扱いをされることになる。

 そうして最後には……


「愛しオータムル王子に会えるのは嬉しいけど、魔女になっちゃうのはなぁ」


「あっ、そっか。ゲームの中ってことは攻略対象にも会えるんだ!」


「お姉様はいいよね、攻略対象に愛される役割なんだから」


「うぅ、でも、それであなたを犠牲にするのは……」


 記憶を思い出した今、物語の流れは受け入れられない展開だった。

 悩む、セレラタス。そこにクローランサスが一つの提案をする。


「……いっそのこと、物語通り進めましょうか。そして王子様に愛されるのよ」


「えっ!?それじゃあ、あなたは!?」


「もちろん、ただで死ぬつもりはないわ。ねぇ、私達の約束覚えてる?」


「約束?」


「そう、二人の推しが被ったら?」


「……二人で推しを愛でる」


 それは、前世で二人の約束事。

 オタクであり、感性も近かった二人はしばしば、乙女ゲームの推しが被ることがあった。

 どちらがより、攻略対象を愛しているかと喧嘩したこともある。その度に仲直りした二人には、取り決めがあった。


「「愛しい人(攻略対象)は二人で共有する」」


 二人は笑いあった。



 その後、二人は今後に起こる展開と計画を立てた。

 一番の目標は、二人の推しである攻略対象のオータムル王子に二人で愛されること。

 そのためには、基本的には、攻略に沿う形で物語を進める。

 その間に、クローランサスは迫害をされてしまうけど。


「入れ替わりで痛みも共有しましょう」


 もともと、似ていた二人が本気で入れ替わりをすれば見分けられる人は誰もいない。

 そんな見かけを使って、いいことも悪いことも二人で共有することにした。

 問題となる魔法の属性についてだが、


「そもそも、入学式で言われる魔法の属性ってただの得意属性だから、二人共使えるよね」


「あ、そうだよね。他の人だって複数属性使えたし」


 得意属性は二人共あるけれど、それ以外が使えるわけではない。

 お互いの苦手属性を教え合うことでこれを解決した。


 二人は計画どおり、セレラタスとしては王子に愛され、クローランサスとして魔女になるという道を歩んだ。

 こうして、二人は、ここまでたどり着いたわけだ。



「う、うそだ……」


 二人が入れ替わっていた?

 突然の告白にオータムル王子は動揺が隠せない。

 聖女と魔女が入れ替わり?

 自分の後ろにいたのが魔女だった?

 そんなばかな。

 冷静な思考に頭が回らない。


「……っ!」


 そんな中で王子が選んだ逃亡だった。

 国を守る聖女が国の敵である魔女の側だったこと。

 この危機をなんとか伝えなくては。

 しかし、ここまできて蜘蛛の糸に絡められた王子をみすみす逃がすことはありえない。


「嫌だわ、昨日はさんざん愛の言葉をいただいたのに」


 入ってきた扉の前にはクローランサスが立っている。

 いや、これはセレラタスだったか?わからない。


「そして、一昨日は私が愛の言葉をいただきましたわ」


 すぐ背後から手を回され全く同じ声が聞こえる。


「くそっ!」


 もがこうとするが、何故か身体が動かない。


「これ……は……」


 そのまま、意識が朦朧としていく。

 身体の力が抜けて倒れるところを今度は前からも支えられた。

 柔らかい感触と香りがオータムルの前後から刺激する。

 ああ、一体どこで間違ったのか。

 そんなことを考えるオータムルの耳に声が響く。


「「これであなたは私のもの」」


 自分が愛した、ただ一人の声が二重に聞こえてきた。


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お読みいただきありがとうございます。

例によって挿絵も作りましたのでついでに見ていってください。

https://kakuyomu.jp/users/CatFall68/news/16817330654723319470

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