七代先

大塚

第1話

 同じクラスの薄野すすきのさんには社会人一年生のお兄さんがいて、一人暮らしの部屋に幽霊が出るという相談を持ちかけられた。

 結論から言うとそれの正体は幽霊でもなんでもなくて人間だった。ストーカーだ。お兄さんが学習塾でバイトをしていた頃の教え子。僕たちと同じ高校生。なんなら同い年。17歳の女の子がお兄さんの部屋の合鍵を勝手に作って、部屋に入り込んだりベッドの下に潜んだりしていたのだ。

 お祓いではなく通報と、暴れるストーカー女子の身柄確保が僕たちの任務となった。


「絶対に許さないからな! ぶち殺してやる!」

 一応事件に関わってしまった者として呼び付けられた警察署の廊下で、すれ違った男性に怒鳴りつけられた。ストーカー女子の保護者だ。警察の人が黙らせようとしているけれど男性の勢いはすごくて、絶対に許さない、恥知らず、寄ってたかって娘の人生をめちゃくちゃにしやがって、と悪口のバリエーションがそれなりに豊富だ。

「おまえら、七代先まで祟ってやる!」

 保護者男性の喚き声に、僕の保護者として、そして現場で一緒に通報を行った者として側にいた菅原すがわらがぴくりと顔を上げた。身長2メートル、長い黒髪を後ろに流して端正な顔がはっきり見える(でも顔半分をマスクで覆っている)菅原が「」と平たい声で繰り返した。

「──七代でいいんですか?」

「は?」

「たったそれだけでいいんですか?」

「な、なんだよ……」

「七代程度で気が済むなら、いちいち宣言しねえ方がいよ、おしょすいなぁ」

 絶句する保護者男性はそのまま警察の人に引きずられるようにして廊下の奥に消えて行った。菅原も私語を注意されていた。菅原がいったいどんな声音であんな言葉を吐いたのか、正確なところは僕しか理解できていないと思う。

「菅原」

「はい、反省しています」

 ちゃんと人間のふりしなきゃ駄目だろ、という僕のダメ出しに菅原は真顔で肩を縮めている。

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七代先 大塚 @bnnnnnz

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