ヒトデの国

@taraxacum_vinum

第1話

誰がどういう理由で決めたかは知らないけれど、世の中に存在するほとんどの旗は横長の長方形だ。




空にはためく本物の旗だけならまだしも、お子様ランチの顔であるチキンライスの上に垂直に樹てられた“旗のような何か”ですらその規格にきちんと従っている。




もしかしたら明確な基準を定めたWFO(世界旗機構)のような組織が存在していて、規格外の旗を作った人間を懲罰するために日夜監視の目を光らせているせいなのかもしれない。




彼らの厳しい倫理観についてはイマイチよく分からないけれど、その機構の本部が設置されている国家はネパールではないことだけは僕にも分かった。




僕はベンチに腰掛けて青空に映える旗を見上げながらそんな愚にもつかない事を考えていた。




旗はレンガ造りの建物の高さ3メートルほどの位置におよそ45度の角度で壁に突き刺さるような形で固定されていた。




それはまるで少しでも光を得ようとして大樹から太陽に向かって伸びた逞しい枝のように見えた。




ポールが固定されたポイントの上下には同じサイズの窓があり、どうやらその窓は一階と二階の明り取りの役割を果たしているようだった。




旗の左肩は濃い青の長方形が占めており、その上に規則正しく等間隔に白地の星が窮屈そうにひしめいているように見えた。




それは僕にゴツゴツとした岩礁に囲まれた海辺にひしめくヒトデの大群をイメージさせた。




残りの部分は赤と白の十三本の横縞が占めている。




そう、これは言わずと知れたアメリカ合衆国の国旗だ。




穏やかな四月の気候のせいか、旗のなびき方はあまり元気が良いとは言えない。




月面に突き刺さった星条旗ほどではないが、NHKが放送終了前に流す日の丸のような勢いもなかった。




もしも金魚鉢で飼われている土佐金の尾びれが同じようななびき方をしていたら心配して医者に見せる必要がある。




そういう種類のなびき方だった。




星条旗の星の数でも数えようか?




そう思うほど僕は時間を持て余していた。

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