ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!⑦ ~神々の邂逅編
ゆうすけ
おおおお、ゴッド!
これは、この街に住む二人の幼女と、彼女たちの新任担任教師と、彼女たちを狙うキモい男と、その幼馴染が繰り広げる物語である。
◇
にらみ合って対峙する亜子とミチエ先生。先に声を上げたのは亜子だった。
「はああああああっ!」
亜子の繰り出す体重の乗った拳がミチエ先生の頬をかすめる。常人ならもろに顔面に入っていた。しかしミチエ先生は驚異の柔軟性で背中を逸らせ、紙一重でかわしている。すかさず身体を起こすと蝶のように軽く亜子から距離を取った。
「は、早い! でも、むやみに拳を振り回してるだけね」
ミチエ先生はパンチの後に繰り出された後ろ回し蹴りも華麗なバックステップで難なくかわした。
「ふふふ、それはどうかしら? せいやあ!」
亜子は息つく暇もなく、足払いからの回転蹴りでミチエ先生を攻め立てる。ずしんと空気を震わす足刀が飛ぶ。さすがのミチエ先生もたまらずバク宙で間合いを取らざるを得ない。三回転バク宙で十メートルほど離れた場所に着地し、構えをとって一瞬呼吸を整える。そのまま亜子に向かって大声をあげた。
「ふっ、なかなかやるわね。聞かせてもらえるかしら?」
「なにを!」
「名前。せっかくだから聞いといてあげる。ちょっと趣味じゃないから、私のぬいぐるみコレクションにはしないけどね」
「けっ、すかしてんじゃないわよ。そんな簡単に個人情報出すほど安くないからね、私は。こちとらエアロバイクで毎日鍛えているんだから」
「あら、いいのかな? そんな生意気言って。それじゃ行くわよ。あなたには、ゴミ箱が、お似合い!!」
ミチエ先生は叫びながら身体を大きく反らせると驚異の背筋力で大きく前に飛び出した。数十メートルの距離を一瞬で詰める。間合いの大そとからのジャンプ攻撃に亜子は対応できない。ばさんと月を遮って飛び込んで来たミチエ先生に頭から覆いかぶさられてしまった。
◇
「ねえ、どうして逃げないの? ここで見てるだけなの?」
亜子とミチエ先生が取っ組み合いを繰り広げる住宅街の空き地の片隅で、サヤカは不思議そうに男に話しかけた。取っ組み合いが始まった途端その場を離れた男は、てっきりそのまま逃げるとサヤカは思っていたが、さにあらず。男は空地のすみっこまでサヤカを引っ張ってくると、そこで手を離して勝負の行方を見守り始めたのだった。
暗がりの空き地で繰り広げられる死闘。空き地と言えば土管。日本人の心象風景に刻まれた空地草むら土管の黄金三点セットに月明りが降り注ぐ。それを背景に二人の女子が死闘を繰り広げている。
「キ、キ、キ、キ、キミは、に、逃げて。ボ、ボ、ボ、ボクは、こ、ここで、あ、あ、あ、亜子を、み、見届けなきゃ、い、いけない、き、気がする」
男はサヤカには目も向けず、真剣な目で二人の死闘を見つめていた。
「そこは見届けるんじゃなくて助けにいくところだと思うの、サヤカ」
つぶやいたサヤカの背後でがさりと音がした。ハッと振り返るとあわてて男の腕を引っ張った。
「キモいおじさん! 誰かいるよ!」
◇
亜子に馬乗りになったミチエ先生は、勝ち誇った顔を月明りに晒す。
「さあ、もう逃げられないわよ。おとなしくぬいぐるみになるのね。ゴミ箱直行だけどね」
マウントを取るミチエ先生を下から見上げた亜子は、悔しさを隠さずにうめいた。
「く、いっそのこと、このまま、こ、殺せ!」
「あらやだ。得体の知れない名前も名乗らない女を殺しても、私にメリットは何もないわ。ぬいぐるみになってドラゴンの供え物にでもなるといいわ!」
そして残忍な笑みとともに亜子の髪の毛に手を伸ばした。
「ふふふ、今から全身の皮をはぐからね。多少、というかかなり痛いと思うけど、ぬいぐるみになれるんだから……」
ミチエ先生はぐいと腕に力をこめる。
「ぐわあああっ」
亜子の悲鳴がくぐもったうめき声に変わった。
「ありがたく思うのね!」
「うがあああああ」
◇
「サヤカちゃん! あー、キモいおじさんもいるー! サヤカちゃん、キモいおじさんになんかされたの?」
「エーコちゃん! 違うの! ミチエ先生にぬいぐるみにされそうになったの! ミチエ先生、本当は悪い人だったの! 今あそこで、エビみたいになって女の人と喧嘩してるの!」
「ま、待って、サヤカちゃん、い、意味が分からない」
サヤカのもとに現れたのは風呂上がりに熊さん着ぐるみのバスローブを羽織ったエーコだった。髪の毛はいつものツインテールではなく下ろしている。
「ほら、あそこ見て!」
サヤカが指差した先には月明かりをバックに亜子に馬乗りになっているミチエ先生の姿があった。
「あ、あ、あ、あ、亜子おおおおおお」
ミチエ先生に向かってキモ男が飛び出していく。
「く、く、くそおおおおお。あ、あ、あ、あ、亜子を、は、はなせええええええ」
「おじさん! 危ないから行っちゃダメだよー」
サヤカが止める声を振り切ってキモ男は走る。
腕をぐるぐる回しながら。
涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして。
それでも走り続ける。
「あんなの絶対勝ち目ないのに。キモいおじさん、ぬいぐるみにされちゃう……」
「サヤカちゃん、あのキモいおじさん、キモいんじゃなかったの?」
「キモいから嫌い。でもサヤカのこと、助けてくれた。それに、あのおじさん、髪の毛はちゃんとある……」
サヤカがキモ男を心配そうに見ている。エーコはつぶやいた。
「難しいものなのね、女心って」
その刹那、月夜の空が白く輝き、まばゆい閃光を放つ光の玉が頭上に現れた。神々しい光の渦に、響き渡る緩やかな声。
「さまよえる魂を持つものたちよ。争うのはやめて、私の声を聞きなさい」
(まさかの続く)
以下、言い訳
いやね、ホントはね、書ききって終わるつもりだったんですよ。ただ、お題とストーリーの噛み合わせが悪くてね。しかも年度末じゃないですか。クソ忙しい訳なんですよ。仕事中にエーコのツインテールとか亜子の人肉ハンバーグとかいってる暇ない訳なんですよ。
とりあえず規定字数はクリアしたんでね。ここまででKACの本番は一旦終わりにしてですね、後日近いうちに延長戦で最終回書きますんで、それで勘弁してください。
いや、読んでくださったみなさんにはまじ申し訳ないと思ってます。
ちょっと、そこどいて!エーコが行くよ!⑦ ~神々の邂逅編 ゆうすけ @Hasahina214
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