第39話 ダブルデート

 約束の日、待ち合わせの遊園地の前に着き晴と美咲を待つ。陽菜は自宅を出てからずっと俺の手を握ったまま離してくれなかった。


 「あ、陽菜ちゃんにじんじん。ごめんね、待った?」


 「遅え」


 約束の時間から十分ほど遅れて二人はやっときた。


 「仁、久しぶりね。元気でやっていたのかしら?」


 美咲が声をかけてきた時、陽菜の手を握る力が少し強まった。


 「ああ、まあな」


 「さ、早く入ろうよ。暗くなっちゃう」


 晴に急かされ遊園地の中に入る。晴は忙しなく、僕ね、ジェットコースター乗りたいのとはしゃ偽始める。


 「私は良いわよ。仁と陽菜ちゃんはどうするの?」


 「陽菜、乗れそうか?」


 陽菜が不安そうに頷いた。


 「無理すんな。そんな顔して乗っても楽しくねえだろ。どうせなら、お前が楽しめるやつ乗ろうぜ。悪いな、晴。そういう事だから二人で乗ってきてくれや」


 「わかった。それじゃ、次は、ちゃんと陽菜ちゃんも乗れるのにしようね。行こう、みいちゃん」


 少し不満そうな美咲の手を引き、二人は目当ての乗り物の行列に並び始めた。


 「美咲さん、不満そうだったな。やっぱり乗れば良かった」


 「何言ってんだよ。無理して乗って、体調でも崩したりしたらそれこそだろ。美咲のことは気にすんな」


 不安そうな陽菜の頭を優しく撫でる。


 「それより、何かアイスでも食うか?」


 「えっと、どうしようかな」


 迷っている陽菜の手を引き売店まで連れていく。


 「すみません、これ下さい」


 バニラアイスクリームを購入し、陽菜に渡す。


 「仁くんは食べなくても良いの?」


 「俺はいらねえ。良いから黙って食っとけ」


 近くにあったベンチに腰掛け陽菜が食べ始める。


 「仁くん、ごめんなさい」


 「何謝ってんだよ」


 陽菜は食べるのをやめると申し訳なさそうに、今日、行くこと、勝手に決めちゃったからと言った。


 「別に気にしてねえよ。ただ、陽菜が俺と美咲の関係を知ってるから、少し気が引けたってだけで」


 「うん。陽菜ね、美咲さんに仁くんのことを聞いてみたかったの。学校のこととか、陽菜が知らないこと、沢山あると思ったから。仁くんに聞いてもあんまり教えてくれないから」


 寂しそうに陽菜は一口食べる。


 「そんな事なら俺に聞け。嘘はつかねえし、聞かれたらちゃんと話す。それに、美咲が知らねえことだっていっぱいあんだから」


 「えっと、うん、そうだね」


 その後も陽菜が食べ終わるまでその場に居ると、乗り物を乗り終えた二人が戻ってきた。


 「何々、ずっとそこに居たの、じんじんと陽菜ちゃん」


 「ああ、まあな」


 陽菜が食べ終わった包み紙を捨てに行って戻ってくる。


 「陽菜ちゃん、じんじんに我が儘言っても良いんだよ。あれ乗りたいとか、食べたいとか」


 「さっき、アイス買って貰ったから大丈夫です」


 陽菜がまた手を繫いでくる。そんな姿を見た美咲が不満そうにしている。


 「みいちゃん、顔怖いよ。陽菜ちゃんが怖がってるから」


 「あらそう。それはごめんなさいね。それより晴、貴方、私が誰と付き合っていても良いって言ったわよね」


 そう聞かれた晴は少し不思議そうな顔で、みいちゃんの一番は僕だしねと言った。美咲は何を考えたのか俺の側に近寄り、仁、愛してるわと耳元で囁いてくる。


 「は、何言ってんだよ、変態教師が。美咲には晴が居るだろうがよ」


 「晴は晴よ。晴の了承は得てるわ。私が他に何人彼氏を作っても良いって。ねえ仁。戻っていらっしゃいよ。また、私が可愛がってあげるわ。そんな小娘では出来ないこともしてあげる」


 陽菜が俺から離れて晴の方へ行ってしまった。


 「何考えてんだよ。俺は、お前の彼氏じゃねえし、仮にそうだとしても、二番目だなんてごめんだ」


 「じゃあ、二番目じゃなければ良いのね。そうね、仁が私の元に戻って来るって言うなら、晴を振ってあげても良いわ」


 晴に聞こえないように小さな声で囁いてくる。


 「気持ちわりいんだよ、離れろ。人の女を小娘呼ばわりしてんじゃねえ」


 美咲を引き離すと陽菜に、こっち来いよと言った。


 「お兄ちゃんは、本当に、陽菜の方が良いの?」


 「決まってんだろ、言わせんなよ。おい、晴。この女ちゃんと首輪かけとけよ。俺にはもう関係ねえ奴なんだから」


 晴が美咲の手を引いた。俺は陽菜の手を引き自分の側に来させた。


 「陽菜、この際だから言っとく。俺は美咲のことを愛してたわけじゃねえ。付き合った覚えもねえし、こいつの彼氏になった覚えもねえ。俺の初めて付き合った女は陽菜、お前だけなんだよ。今までもこれからもな。だから、覚悟しとけよ。お前が俺から離れることなんか許さねえからな。死ぬまで一生、俺の側に居ろ。わかったか」


 そう話し終わった後、陽菜は嬉しそうに頷き晴は恥ずかしそうに顔をそらした。


 「何もこんな所で言わなくても良いのに。じんじんったら大胆だね」


 晴の言葉に気がついた。


 「やべえ、やばすぎる。言うんじゃなかった。おい、とりあえず行くぞ」

 陽菜の手を引き先に歩き出し、その後を晴と美咲が付いてきた。


 夕方になるまで乗り物に乗り、最後は何故か晴がお化け屋敷入りたいと言い出した。


 「陽菜、どうする」


 「えっと、入る。仁くんとなら平気かも」


 四人でまとめて入ることになり、陽菜は腕に抱きついてきた。


 「仁くん、離れちゃ嫌だよ?」


 「離れねえって」


 暗い中、先に進む。中で脅かし要素が来る度に陽菜がお兄ちゃんと呼ぶ。そんな陽菜を落ち着かせるために、風が吹いただけと仕掛けの説明をしていく。ふと前を歩く晴と美咲を見ると自分達とは正反対で美咲が冷静で晴は泣き叫んでいた。


ー続くー

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