第27話 もしも兄妹じゃなかったら
違う、陽菜に対してではない。これはその、今までお兄ちゃんとしか呼ばれていなかったから、どう反応すれば良いのかを困っているだけだ。
「仁くん、あのね、陽菜ね、仁くんと一緒なら何処に行っても楽しいよ」
やめろ、そんなに名前を呼ぶな。
「陽菜、さっきのは無し。お前は一生お兄ちゃんって呼んでろ」
「嫌だよ。もう呼びたくないよ。お兄ちゃんじゃ、仁くんとそれ以上にはなれないから」
陽菜が俺から離れると、涙を流しながら訴えてくる。
「お前は俺をどうしたいんだよ。高校生の餓鬼がいっちょ前に人の感情を搔き乱してんじゃねえぞ。ああ、もううぜえ。デートはやめだ。もう帰る」
俺が自宅に向かって歩き出すと陽菜が服を掴んできた。
「待ってよ、仁くん。陽菜、嫌だよ」
「嫌じゃねえんだよ。俺とお前は兄妹なんだって何度も言ってんだろ。それなのに俺がやすやすとお前に手を出せるわけもねえし」
いや、今、俺は何て言った?
兄妹だから手を出せないって言った?
その言葉の裏は?
違う、もし兄妹じゃなくなっても陽菜に手を出すような真似はしない。好きではない。好意なんて言葉は無い。
自分の気持ちを掻き消すようにそう言うとまた歩き出す。
「ただいま」
「あれ、じんじん。僕、ちゃんと言ったよね。夕方まで楽しんで来てねって。まだ出て行ってから三十分も経ってないんだけど」
晴が怒ってくる。そんな晴を退かして中に入った。陽菜もその後に入ってきて晴に止められている。
「おい、九条。お前、まだ陽菜の事好きだよな。なら、お前がデート行ってこい」
「え、でもお兄さん」
九条が戸惑っている。
「良いから早く行ってこいって言ってんだろうがよ。そんでてめえが陽菜と付き合えよ。俺はもうごめんだ」
怒鳴りながらそう言うと九条が、は、はいと言って陽菜の元に向かい陽菜と二人で部屋を出て行く。晴が、戻ってきて、どういうことさと聞いてくる。
「うっせえな。陽菜が調子こいたからむかついたんだよ」
「どういう風に?」
俺は大きな溜息をつく。
「うぜえ、もう本当にうぜえな。てめえらは、俺達兄妹をどうしたいんだよ。どうせ何か企んでたんだろ。ほんとうぜえ」
「何も考えてないよ。僕たちはただ、楽しく陽菜ちゃんのお祝いをしようとしてただけで」
晴がそう言ってきたが信用出来なかった。
「竜くんに隠すのはもうやめようよ。竜くん、勘が良いからこれ以上は隠しきれないよ。ねえ竜くん。竜くんは、陽菜ちゃんがもし兄妹じゃなければ好きになってあげてた?」
何だその奈々の質問は。
「なってねえよ。俺にとっての陽菜は今も昔も妹だぞ」
違う、妹だけど妹じゃない。胸が頭の中が混乱する。
俺は、陽菜の事を昔とは違う感情で見始めてしまっている。
違う、そうじゃない。こんな気持ちは間違っている。早く捨て去るんだ。そうだ、きっと俺の体が欲求不満なだけ。最近は忙しくて美咲の呼び出しにも行ってなかったから。美咲を抱けば、欲求が満たされてしまえば、こんな感情は消えてなくなる。
「そう、違う」
俺はそう呟き携帯を取り出し美咲に電話をかける。
「どうしたのかしら。仁から電話をくれるなんて珍しいわね」
「ああ、今からそっち行って良いか。抱かせろよ」
美咲は二つ返事をした。通話を切りリビングを出て行こうとする。
ー続くー
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