第16話 高校中退
巧の家に着き、呼び鈴を鳴らす。中から巧の声がして何も聞かずに入れてくれた。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「ああ、こんぐらいどうって事ねえよ。陽菜、俺な、高校辞めることになったから。お前の居場所は言ってないからお前も言うなよ。わかったな」
陽菜は黙って頷いた。
「おい仁、絆創膏、貼ってやろうか」
「良い。自分でやる」
巧から絆創膏を受け取り洗面所に向かう。
「痛っ」
軽く水で顔を洗い拭いてから絆創膏を貼る。
「お兄ちゃん、ごめんね。陽菜のせいで」
「馬鹿野郎、お前のせいじゃねえよ。俺が勝手にやったことだから。それより陽菜は、あのくそ婆のこと、好きか」
何となく気にはなっていた。陽菜の気持ちを考えずに連れ去るような真似をしてしまったこと。
「うん、好きだよ。私のただ一人のお母さんだから。だけどね、それ以上にお兄ちゃんが好き。お兄ちゃんが陽菜を助けてくれたから。お兄ちゃんは誰よりも優しくて格好いいって事、知ってるから」
陽菜が後ろから抱きついてくる。
「お兄ちゃん、ありがとう。大好きだよ」
陽菜の大好きという言葉は何故か兄妹間のものでは無いような気がしていた。だけど陽菜と自分は義理であっても兄妹でそれは、父親と義母が離婚でもしない限りは変わることない。俺は陽菜の兄貴である以上、その感情には答えることは出来ず、突き放すしかなかった。
「俺も妹のお前が好きだから離れろ。暑苦しい」
陽菜が離れてうんと言った。
翌日、学校に向かった俺は職員室に行き美咲ちゃんから退学届を貰った。教室でそれを堂々と書いているとクラスの何人かから辞めちゃうのと言われた。
「ああ、まあな」
退学届を書き終わり教室を出て行こうとした時、少し前にカラオケに誘ってきた女の片割れが声をかけてきた。
「ねえ、竜くん。辞める前にメルアド教えてよ」
「うぜえ、ブスに教える訳ねえだろ。いっぺん死んどけ、あほが」
廊下を出て歩き出した時、今度は腕を掴んできた。
「それじゃ、奈々とえっちしよ。竜くんのこと、奈々が落としてあげるから」
突然そんな事を言ったものだからそれを見ていた同級生達が騒ぎ立てた。巧は驚いて笑っている。
「おい、見世物じゃねえぞ。失せろ。てめえも何言ってんだよ。こんな所で言う事じゃねえだろうが」
吠えるようにそう言うが同級生達はこの後どうなるのだろうかという好奇心には勝てないらしく、まるで目を輝かせるかのように見てくる。
「奈々は本気だよ。あの時は驚いて逃げちゃったけど、本当に竜くんが好きだから。竜くん辞めちゃうって知ったら他の子も告白すると思うの。だから、誰よりも早く竜くんを奈々のものにしたいの」
「ああ、うぜえな。俺、そう言う重いの嫌いなんだわ。後腐れ無い奴が良い。そもそも俺は誰のものでも無い。俺は俺のものだ」
俺の言葉を聞いた巧が小さく笑う。そして笑っている意味がわからない他の同級生達は、何で笑っているのかと聞きずらそうにしている。
「笑ってんじゃねえぞ、巧」
「悪い、ついな。仁が俺は俺のものだとか言ったからさ」
巧の言葉に女子一人がどういうことなのと聞いた。
「それは秘密だよん。それでも知りたいなら、子猫ちゃんが仁と親密な関係になって聞き出すんだね」
いつものごとく陽菜の名前を出すのかと思った俺は巧の言葉に少し驚いていた。
「ねえ、竜くん。奈々に一回で良いからチャンスちょうだい」
「おい、仁。一回で良いって言ってんだから一発ぐらい犯らせて貰えば良いじゃん。そうすればお前も美味しい思いできるわけだし。どうせ、辞めてからもあの人とは会うんだろ」
巧の言うあの人とは多分美咲のことだ。確かに辞めてからも美咲から連絡が来くれば好きでもないのに会うだろう。
「たく、面倒くせえな。犯ればいいんだろ、犯れば。おい、ブス。お前、今日の放課後校門で待ってろ。行ってやるから」
「ありがと、竜くん」
職員室に向かい美咲に退学届を渡す。
「仁、放課後に体育倉庫にいらっしゃい。待ってるわ。はい、確かに受け取りました。竜崎くん、これから大変だろうけど頑張るのよ」
耳元でそう言った後、教師面をした美咲にそう言われ俺は職員室を出た。一度教室に戻り鞄を持って教室を出る。
「おい仁。また後でな」
「ああ、お前もかったるい授業頑張れや」
巧と言葉を交わし下駄箱に向かう。靴を履き替え校舎を出る。校門を出て何となく振り返って見る。行きたくもない高校に半ば嫌々通っていた。だけど、それでも巧と出会えた事は大きな収穫だったのかもしれない。
「は、何しんみりなってんだよ、俺は。キャラじゃねえ」
そう吐き捨て学校を離れた。そして取りあえず街に向かい道の隅で煙草をふかし始める。
「禁煙した方が良いって言ったのに」
「よお、晴」
晴が俺を見つけて声をかけてきた。
「よおじゃないよ。僕、じんじんに言ったよね。禁煙した方が良いって」
「んだよ、俺の母ちゃんか、てめえは」
晴は俺の手に持つ煙草を取り上げると足で消してしまった。
「それにこんな昼間っから高校の制服着て吸ってたら補導されるよ。逃げるの面倒くさいでしょ」
「それもそうだな。んじゃ今は止めとくか」
煙草を吸うことを諦め溜息をつく。
「じんじん学校は?」
「色々あって辞めてきた。晴こそこんな時間に何やってんだよ」
晴は、これからバイトだよと言った。
「あ、ねえ、じんじん。高校辞めたなら暇でしょ。今ね、僕のバイト先のコンビニで、昼間と夜間で働ける人募集してるんだ。だから、一緒に働かない?」
晴からの誘いに俺は二つ返事で答えた。
「じゃあじゃあ早速準備しないとね。お洋服は仕方ないけど、履歴書は買わないと」
晴が俺の腕を掴み立ち上がらせ引くように歩き出した。
「今日はまだ面接して貰えないと思うけど、僕が店長には話しておくから。だからじんじんは、今日中に履歴書を用意しておいてね」
「ああ」
俺は晴に引かれるまま百円均一に向かい履歴書を購入した。
「それじゃ僕はもう行くけど、書いておくんだよ」
「わかってるって、しつこい」
晴と別れた俺は安いジャンクフード店に入りそこで履歴書を書いた。それから学校が終わる放課後まで時間を潰し、巧に陽菜を迎えに行ってやってくれとメールを送った。そして先に校門で奈々を待つ。
ー続くー
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