第15話 家族を掻き乱して

 家に向かう電車の中で晴に会った。晴は疲れた様子で溜息をつき俯いている。


 「晴、どうした」


 「あ、じんじん。実はさ、じんじんには話してなかったんだけど、少し前からバイト始めたんだよね。それでね、そこの先輩が超こき使って偉そうな人で。ほんとむかつくよ。きっとその人、僕より弱いくせに。僕、見た目がこんなんでしょ。だから舐められるんだよね。まあ、普通に喧嘩の時は、その方がやりやすいんだけど」


 晴は愚痴るようにそういうとまた溜息をつく。


 「そうか。それは大変じゃねえか。でもどうしたんだよ、突然」


 「いやね、今の施設、今年で出なくちゃいけなくてさ。別に元からほとんど帰ってなかったから良いんだけど、これからはお小遣いもなくなるし、生活費も稼いどかないとなって。僕も色々と考えているわけだよ」


 晴の事情を聞いて納得し自分も今までのことを話した。


 「そうなんだ。でも、むかつくよね。だってさ、そのお母さんが居なければ陽菜ちゃんとじんじんは家を出なくて済むわけでしょ。僕だったら殺っちゃうなあ。苦しめる存在は消えた方が良いもん。ねえ、じんじん。もし良かったら、僕が手助けしてあげようか。じんじんは陽菜ちゃんがいるから少年院に入るわけには行かないでしょ。それなら僕が今、このままじんじんと一緒に行って壊してあげるよ。あ、僕の心配ならしなくても良いからね。じんじんの義理のお母さんを殺っちゃったあとはちゃんと自首するし、じんじんに頼まれてやったとか一切言わないから。実際、僕が勝手に殺るだけだしね」


 晴はにんまりと笑っている。そんな事頼むはずもないのに。


 「やめとけよ。あんなくそ婆の為にお前が手を汚すことなんかねえよ」


 「そっかあ、残念。なら僕、諦めるよ。でも、消したくなったらいつでも相談してきて。僕、前にも言ったけど、人を殺す覚悟なら出来てるから。しかも、じんじんは僕の大切なお友達だからいつでも協力したいもん」


 晴のその言葉だけで今は十分だ。今の俺には仲間が居る。その実感が大切だ。


 「ああ、わかった。悪いな」


 「違うでしょ、じんじん。そこは、俺が呼んだらすぐ来いとか言ってくれないと。じんじんらしくないよ」


 晴が俺の顔を見て両頬を膨らませる。


 「ああ、そうだな。良いか晴。俺が呼んだらすぐに来いよ。じゃねえと殺す」


 「そうそう、じんじんはそうじゃないとね。僕、じんじんが暴言吐くの好きだから聞けないと寂しくなるよ」


 満面の笑みを浮かべて、あ、僕ここで降りるから。ばいばいじんじんと言って電車を降りていった。それから何駅か過ぎて最寄りの駅に着き電車を降りる。自分の家に向かい、扉を開けて中に入る。すると義母が嬉しそうに玄関まで出てきて、陽菜、良かった。戻ってきてくれたのね。ごめんなさい。酷い母親でごめんなさいねと言ってきた。そして俺の隣に陽菜が居ない事を知ると顔色を変え、泣き崩れた。


 「何で貴方しかいないのよ。陽菜を何処にやったの。私の可愛い娘を返してちょうだい。この泥棒、誘拐犯」


 そう泣き叫び俺のズボンにしがみついてくる。


 「うぜえんだよ、離れろよ。くそ婆」


 怒鳴るようにそう言って見るが離してくれず、リビングから父親が出てきた。


 「仁、陽菜ちゃんは何処にやったんだ」


 「うるせえな、その事で話したくもねえてめえと話しに来たんだろうがよ。くそ親父、良いからこいつをなんとかしてくれよ。話が出来ねえだろ」


 父親が義母の肩を掴み、離してやりなさいと言った。すると義母は泣きながらも頷き俺の側を離れてリビングに行った。


 俺もすぐにリビングに向かい、椅子に腰掛ける。


 「陽菜を何処にやったの。私の可愛い娘、陽菜を。何で貴方が連れ去るの」


 義母は机に伏せて小さな声でそう言うとまた泣き始めた。


 「仁、陽菜ちゃんを家に返しなさい」


 父親は冷静だ。


 「帰す訳ねえだろうが、あほ。俺がどんだけ我慢してきたと思ってるんだよ。てめえがこのくそ婆から逃げて家に帰らなくなった時、幼いながらに俺がどんな気持ちで陽菜に暴行を加えるくそ婆を見てきたと思ってる。俺だって、何度も陽菜とくそ婆から逃げた。だけどもう限界だ。このままこのくそ婆と一緒に居たら陽菜が殺される。そんなのは見たくねえんだよ」


 父親の顔を見てそう言うと父親は、俺に近寄ると殴り飛ばしてきた。その反動で身体が椅子ごと倒れる。


 「何でお前はそうなんだ。少しはお父さんの立場も考えろ。お前が生活出来てるのは誰のおかけだと思っている。全てお父さんのおかげだろうが。それなのに、お前は親不孝ばかりして。情けない。少しは親孝行したらどうなんだ。仁、陽菜ちゃんを返しなさい。そして、お前はここから出て行け。もう二度と、この家に足を踏み入れるな。お前のことは、卒業までは面倒見てやる。義務だからな。卒業してからは一人で生きていきなさい」


 父親は実の息子より、この狂ってる女を取った。


 「何が立場を考えろだ。もうてめえの立場なんかこの女と再婚した時からとっくの昔に崩れてんだろうが。ふざけたことぬかしてんじゃねえぞ。この女のせいでてめえもこの女も俺も陽菜ももう狂ってんだよ。この女が家族をまるで玩具で遊ぶように搔き乱して。もう、うんざりだ。てめえに言われなくても出てってやるよ。高校なんか辞めてやる」


 立ち上がりそう言うとリビングを出て行こうとする。


 「おい待て仁。陽菜ちゃんの居場所を教えなさい」


 「誰が教えるかよ、死ね」


 父親にそう吐き捨てて玄関に向かうと義母が追いかけてきて、絶対に訴えてやるわ。貴方は私の愛する娘を奪った誘拐犯なんだからと言ってきた。


 「勝手にしろよ、くそ婆。てめえにもう、権力なんかねえんだからな。死ね」


 乱暴に扉を閉じて陽菜の待つ巧の家に向かった。電車の車内の中、他の乗客が俺の顔を見てひそひそと話している。


 「くそが、見てんじゃねえぞ、死ね」


 そう吐き捨て静かにさせてから自分の唇を触ってみる。すると唇からは赤い体液が出ていてきっと父親に殴られた時に出来たものだと思った。


ー続くー

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