第9話 こんなちっぽけな人生

 「あ、じんじん。今暇?」


 「ああ、まあな」


 晴はなら良かったと話し始める。


 「最近じんじんが街で暴れ回ってるから、喧嘩自慢の不良のお兄さん達がじんじんを探し回ってるらしいよ。僕も知らないかって声をかけられたから知らなあいって答えといた。でもじんじん、高校の制服着たままでも喧嘩してたからすぐ見つかっちゃうかも。もし、あれなら、僕も参戦しても良いよう。結構人数居るみたいだし、同世代には負けないじんじんでもきついかも。あと、じんじんの高校でのお友達も居るだろうし手伝って貰ったら?」


 晴が楽しそうにそう話した。


 「何でそんなに楽しそうなんだよ」


 「え、だって、最近はじんじんが大きな喧嘩することって無かったから、僕も参加できるんだと思ったら嬉しくて。それに、向こうから喧嘩しかけてくるんだから、どれだけやっても正当防衛でしょ。わくわくしちゃうな」


 通話越しに晴は小さく笑った。


 「まあ、俺もむしゃくしゃしてた所だしちょうど良かったわ。手伝って貰うとか本当は嫌だけど巧にも声かけてみる」


 「うん、そうして。それじゃ、またお兄さん達に声をかけられたら、じんじん呼ぶから宜しくね」


 晴はそう言うとばいばいと続け通話を切った。


 「どうした?」


 巧が心配そうに聞いてくる。俺は喧嘩自慢の男達が俺を探してるんだとよと言った。


 「やばいじゃん。どうすんだよ」


 「巧、お前、進路はどうするんだっけ?」


 巧の顔を見ずに聞く。すると巧は進学するつもりだけどと答える。


 「そんじゃ、良い。この話は気にすんな。聞かなかった事にしとけ。忘れろ」


 俺の言葉に巧は無理だろと答えた。


 「無理じゃねえよ。俺の問題にお前の人生かけろなんてこと言えねえだろうが。馬鹿かお前は」


 「巻き込めば良いだろうよ。俺の人生なんてちっぽけんだから。こんなちっぽけな人生をかけずに親友失うぐらいなら、お前と何処までも墜ちてやるよ」


 巧が真剣な口調で言ってきたから俺はまた鼻で笑って、本当にお前はどうしようもない馬鹿野郎だな、いっぺん死んどくかと言った。


 「そうだな、いっぺん死んどいた方が良いかも。俺、頭沸いてるんだわ。だから、喧嘩する時は俺も連れてけ、仁」


 「お前、死んだ方が良いほど大馬鹿野郎だけど、そういう所、俺は嫌いじゃない」


 巧は、たく、素直じゃねえなと言って軽く笑った。


 「ああ、でも。学校退学になるかもしれないし、一回美咲ちゃんに犯らせてってお願いしてみようかな。このまま退学になったりしたら、後悔しそうだわ」


 「は、お前、のんきなのな。もしかしたら死ぬかもしれねえって時に」


 巧は煙草を取り出すとその場に座り込み吸い始める。


 「だからだろうよ。別に、死ぬことは怖くねえよ。もちろん、負けて死ぬなんて事は有り得ねえけど。俺と仁、それとお前の友達が一緒なら負ける訳ねえし。ただ、どっちにしろ学校からは何らかの処分が下るだろ。だから、一回犯っときたいんだよ」


 「それもそうかもしんねえな」


 自分も巧の隣に腰掛けた。


 その日の放課後、適当に繁華街をぶらつきながら過ごしていると九条が本屋に入っていくのが見えた。何となく九条が本屋から出てくるのを待ち伏して声をかける。


 「な、何ですか。突然」


 「そんなびびんなよ。別にお前なんか殴ったりしねえよ。将来の俺の義弟だからな。陽菜のこと、宜しく頼むわ。お前が王子様になって守ってやれ」


 九条の肩を抱き絡むようにそう言った。


 「い、言われなくてもいつか、僕は貴方よりも強くなります。強くなって、竜崎さんをお嫁さんに貰って幸せな家庭を作って見せます」


 「そりゃ良かった。頑張って強くなれよ。応援してやるからさ」


 九条から離れ少し乱暴に頭を撫でた。


 「あれ、じんじん。喧嘩ふっかけられてるって言うのに余裕だね」


 晴が俺の姿を見つけて声をかけてくる。


 「まあな。まあ、喧嘩ふっかけられんのもこれが初めてって訳じゃねえし。今更どうしようとか悩む柄でもねえしな」


 「それもそうだね。それより何、その小さい子がじんじんの高校の友達なの。大丈夫かな」


 晴が心配そうにそう言うとすぐに殺されそうだけどと続けた。


 「馬鹿かよ。そんなんじゃねえよ。こいつは陽菜の将来の旦那様。俺の友達はこんなちんちくりんじゃなくてもっと強い奴だって」


 「それもそうか。僕、勘違いしちゃった。ごめんね。じんじんがこんな弱そうな子と友達なわけないよね」


 晴は軽く笑う。


 「ぼ、僕は貴方達なんかに負けないぐらい強くなる。貴方に竜崎さんは渡さない。渡すもんか」


 「あらやだ、何かこの子、生意気だね。怖いお兄さん達を相手にする前にちょっと教育してあげちゃおうかな」


 晴が満面な笑みで九条を見つめている。九条は足を震わせその場に座り込んでしまった。



ー続くー

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