悪魔の数字
富升針清
第1話
「知ってるかい? 兄弟。人間たちは『7』をラッキーナンバーだと思ってるらしい。三つ揃えばそりゃ最高に、ご機嫌に」
「ああ、兄弟。知っているとも。『6』は我ら悪魔の数字らしい。こちらも三つ揃って大フィーバーだ」
お互いがお互い、顎髭を撫でながら。
髭の男と、シルクハットの男が二人。悪魔のような話をしながら。
「いやねぇ。獣だなんて野蛮だわ」
「まったくだよ。我々に数字なんて必要がないというのに」
「悪魔だもの。悪魔のラッキーナンバーなんて朝の占い番組の星座毎に決まってるって知らないのかね?」
「人間は皆平等に7が幸福の証となるのか」
「そりゃつまらない。毎日、誰も彼もが同じ数字を狂信してるだなんて。一週間に一日の休みを大切にしすぎだな。野球もいいけど、悪魔は七回目まで待てないからね」
「はは、言えてるな。皆、一回目で殴り合う」
「あら。野蛮は間違ってないことになっちゃう」
「僕に至っては獣もあながち間違ってないものだからね。否定はしないさ」
「確かに。上手いこと言うじゃない、人間くんたちは」
「ああ、感心するよ。しかし、7が素敵な数字か……。ふむ」
「何をそんなに考えてるんだ? 7信教にでも入られるの?」
「7が来たらラッキーだと思う宗教に興味はないな。我々は七日もなかっただろ?」
「ルシファ君の話? 悪魔の数字が6なら、週休六日にして欲しいね」
「実に悪魔らしい思想だと思うが、君は目の前の仕事をまず片付けるべきだ」
「仕事ねぇ。残業代出る?」
「さあ? お互い管轄外だろ? どうなるかね」
「ああ、ブラック企業」
「悪魔のイメージカラーに恥じないな。さて、ここで一つ提案なのだが、我々もそのラッキー7に乗らないかい?」
「おや、珍しい」
髭の男は目を細めてシルクハットの男を見る。
「あんたが悪魔みたいなことを仰るなんて」
「悪魔だからな。我々は」
シルクハットの男が手を叩く。
その瞬間、その場にテーブルとトランプがひと束。
「なあ、君。勝負をしなかいかい?」
シルクハットの男が、黒い影の肩を抱き寄せる。
「僕に勝ったら見逃してやろう。何も問わない。君が地獄の門から逃げ出してきた魂だろうが、何だろうが。僕は君を捕まえないし君を探し回ってる悪魔にも死神どもにも君の居場所は話さない。しかし、君が負けたら君は全てを後悔することになる。そう、君が思うこと全て、全てだ」
「いいね。おもしろそうだ。トランプで先にラッキーナンバーを出したら勝ちってのはどう? 勝負は単純な方が観客が喜ぶ」
「つまり、君がってことだな」
「勿論。楽しまなきゃ人生損だしね。さ、あんたたち一枚ずつ引きなさいな。ルールは簡単。ラッキーナンバーを引き当てるだけ。悪魔のようなアンラッキーナンバー引いたら……」
「ディーラーもどきが話が長い。ささ、君から引きなさい。安心を、悪魔は嘘は付かないからね」
黒い影は震えるようにカードを捲る。
「残念、2じゃないか」
「私も9だ」
「お互い持ってないだなんて。さ、続けて続けて」
震える。だが、逃げることはできない。
一抹の望みを、彼はカードに賭けることしか出来ないのだ。
だから、捲る。
捲る、捲る、捲る。
そしてついに……。
「おや、7じゃないか」
運命のカードを引き当てたのだ。
幸運のカードを。
黒い影は喜びながらシルクハットの男にカードを差し出そうとした瞬間だ。
「そう言えば、アンラッキーナンバーを引いたらどうするか決めてなかったな。どうするんだ?」
シルクハットの男が髭の男に問いかけた。
「あんたが遮ったおかげでね。そんなもの、勿論決まってるだろ? アンラッキーなんだから、ここで終わりだよ」
「それもそうか」
そう言って、シルクハットの男が黒い影をヒョイと掴んで口の中に投げ入れた。
もぐもぐ、ごっくん。
「彼、喜んでたね。なんでだろ? ドMなんかな?」
「大方、人間のラッキーナンバーを連想したんじゃないか? ここは地獄で、相手は悪魔だと言うのに!」
「嘘だろ!? 知らなかったの? 悪魔にとってはアンラッキーナンバーなんだよ。7って」
「ああ、驚きだ。言っただろ? 悪魔は7回も待てないって」
でも、もう。
「聞こえてないか」
そう言って、悪魔のような男が二人笑ったのだった。
しかしおかしな話だ。本当にアンラッキーなのは、悪魔じゃないのに。
数字は数字でしかないのだろか?
「いや、アンラッキーなのは僕だよ。まったく、7人も殺した人殺しの魂は不味いんだから。これから口直ししなきゃならない。まったく、まったくだ!」
折角7人で縁担ぎしたというのに! どうやら、数字は数字でしかないようだ。
残念、残念。
悪魔の数字 富升針清 @crlss
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