不運侍、サウナに行く

汐留ライス

第6話

 おみくじ引いたら全部凶、毎度おなじみ不運侍。


 どんな時でもアンラッキー、懸賞出しても当たらない。トーストを床に落としたら、バターの方が下になる。


 そんな不運な侍に、依頼をしてくる人もいる。


「近頃江戸の町中は、サウナ奉行とかいうやつが、サウナに入る人たちに、巨額の税を課すせいで、みんなサウナに入れずに、整わなくて困ってる。悪い奉行をやっつけて、みんなでサウナに入りたい」


 言いたいことはわかるけど、どうして俺に頼むんだ。


 色々ツッコみたいけれど、今は仕える藩もなく、しがない浪人暮らしの身。受けた依頼は引き受けて、謝礼をもらわない限り、生活だって成り立たない。


 こうして不運侍は、サウナ奉行がいるという、江戸の町でも最大の、サウナへ向かう羽目になる。


 最大というだけあって、サウナ奉行の奉行所は、受付ロビーの部分から、広くて明るいゴージャスさ。


 これで利用者多ければ、にぎやかな場になるはずが、奉行が重税課すせいで、周りはスカスカがらんどう。


 不運侍もこれを見て、あまりに寂しい光景に、そのテンションはダダ下がり。


 しかもここまで来る途中、シューズのヒモが切れている。おまけに黒猫横切って、犬のフンまで踏む始末。


 本音を言えばこんなこと、やめてさっさと帰りたい。けれど奉行の重税に、苦しむ人を助けたい、使命感に似た衝動と、謝礼がないと住んでいる、長屋の家賃も払えない、つらい暮らしに動かされ、渋々奥へ進んでく。


 奥にあるのは大サウナ、フットサルでもできるほど、広々とした空間に、いるのは奉行ただ独り。


「こんなにでかいこのサウナ、ワシがぜーんぶ独り占め。前からずっと望んでた、野望がついに叶ったぞ。めでたいめでたいガッハハハ」


 響く奉行の笑い声。そこへ現るチャレンジャー、我らの不運侍が、サウナウエアに身を包み、ノソノソ歩いてやって来た。


 借りたウエアはブカブカで、サイズがちゃんと合ってない。こんなとこでも運がない。


「ガハハよく来た納税者、ワシのサウナへ来た以上、カネをたっぷり取るからな」


「黙れ暴君悪代官、おまえのしてきた悪行の、裁きを受ける時が今」


「なんかイキっているけれど、今のおまえはブカブカの、ウエアの下は丸裸。一体何ができるのさ」


 確かに奉行の言う通り、腰の刀は脱衣所の、ロッカーの中に入れてきた。もっとも持ってきていても、サウナの中じゃ熱すぎて、持ってるだけで大ヤケド。


「これはしまったミステイク、何で決着つけようか」


 困った不運侍に、奉行はイスの隙間から、トランプ出してポンと置く。


「それならここは平和的、解決といこうではないか。今ここにあるトランプで、おまえと7並べ勝負だ。ワシが負けたら潔く、サウナの税は廃止する」


 ならばと不運侍は、目の前にあるトランプを、何度もシャッフル繰り返し、全部配っていざ勝負。


 ところが自分で切ったのに、手元に7がない上に、6や8さえ何もない。あるのはエースやキングなど、7から遠い札ばかり。これでは勝てるはずがない。


 こうして不運侍が、奉行に負けた顛末は、江戸全域に知れ渡り、見るも無残な恥さらし。道を歩けば町人に、石や卵を投げられる。


 これこそ運がないせいで、ヒーローになる大チャンス、逃した情けない男、不運侍の物語。

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不運侍、サウナに行く 汐留ライス @ejurin

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