2.オーガの血統の力
「……おい、でてくるぞ」
「わかってる、ザクトール」
俺達が、旧世紀の遺物の機械神殿に辿り着くと。出てくる出てくる、機械虫と呼ばれる金属甲虫が。大きさは、そうだな。ちょうど成人男性の頭くらい。
機械虫は厄介な攻撃手段を持っている。腹の中の熱エネルギー炉のパワーを顎のあたりから熱線にして撃ち出す技だ。
「俺が、魔導反射結界を張る。マキアン、ミィアン。お前ら二人は、機械虫を一匹ずつ潰して、疲れたら結界に戻ってこい。結界維持は、俺には容易い事だ」
「……アンタは楽でいいわね? まあ、いいわ。どうせこの機械連中には、アンタの魔導術は通じないんだし」
マキアンが表情を引き締めて。腰の鞘からロングソードを引き抜く。
「行くわよ、ミィアンちゃん。そのポールバトルアクス。伊達じゃないって所見せてね」
「はーい!!」
ミィアンが持っているポールバトルアクスは、俺も最初に酒場で見たときには異様な印象を受けた代物だ。柄の長さは軽く2メアトはある。ミィアン自身の身長よりも長い。そして、刃の部分。結構な分厚さがあり、ミィアンが見た目通りのただの小柄な少女であれば、振り回すのはおろか。ここまで持ってくることもできなかっただろう。
「結界展開!! 行きな、二人とも!!」
俺が合図を出すと!
「シッ!!」
「らーぁ!!」
マキアンとミィアンが機械虫の群れの中に突っ込んで、暴れはじめた。
「ひゅっ!!」
口から息を小刻みに吐き出し、その度に鋭利なロングソードで正確に突き。機械虫を仕留めていく、マキアン。
「おぃ――――――らっ!!」
大きな動作で、ポールバトルアクスをぶん回して、機械虫の群れに強烈な一撃をぶち込み。硬い事で評判のこの機械神殿の床ごと粉砕するミィアン。
この娘、この近隣で名が売れてる戦士だって言った、あのマスターの言葉に嘘はなかった。凄い戦力を持っている娘だ!
「そこ!! 壊してっ!! ミィアンちゃん!!」
「ん? んん!! りょーっかっ!!」
了解、と言ったのだろう。マキアンがロングソードの先で示した、機械虫の噴出口。ミィアンはそこに、強烈な斧の一撃を叩き込んで。ぶっ壊してしまって、機械虫が出てこれないようにしてしまった。
「……ふう。ありがとう、ミィアンちゃん」
「あいよー!!」
「じゃあ、残ってるこの鉄虫。全滅させちゃいましょう!」
「うんー!!」
だが、マキアンとミィアンが、残りの機械虫を処分しようとしたとき!!
『ヴィンッ!!』
という空気を焼く音が幾つも交錯して。
機械虫が一斉に放った、赤く光る熱線が。
二人を襲った!!
「うくっ!! あっつ!!」
「……あつ……い⁉」
マキアンは即座に自分の身体に熱線で空いた穴を、神官剣士の神聖術で塞ぐ。そして、ミィアンの手当てをしようとしたが……。
「あ、あた、あ⁈ アタシの身体……に、傷?」
おお? なんだ? 命に別状はないようだが……?
ポールバトルアクスから、手を放して。身体に開いた穴から流れ出している、赤い血を手の平に取って。何かガクガク震えながら、その血を見ている。そして突然!
『おっぎゃ―――――――――――――――――――――――ん!!』
ぎゃー!! なんだこのバッカでけえ吼え声は!? 鼓膜がやられるじゃねぇか!!
ミィアンは、信じられねえくらい、バカデケェ声で吼えやがった!!
と、同時に。頭の両上に、でっかいお団子の形でまとめていた長い髪がほつれて……。
そこからちょこんと、うしろ向きに生えていた角がにょきにょきと長くなっていく。
あ、これ見た事ある。
オーガの角だ。
バトル筋肉質生物のオーガには、角の数で位階があって。その必ず奇数本数生えている角の数が多いほど、その個体は強烈に強くなると言われている。
で。ミィアンの頭を見ると。
五本生えてる。
たしか、ファイヴスホーンオーガ。そう呼ばれるオーガ種の血が入っている、オーガハーフだったんだな、ミィアンは。
で、俺は頭の中の辞書をぺらぺらと捲って。
顔から血が引く気持ちになった。
人間のランクが冒険者の場合だと。EからSの強度で量られるこの世界で。
ファイヴスホーンオーガの強度は、SS。
俺とマキアンの強度は、量ればだが、AA。
人間最高峰の剣豪や武道の達人、大魔導師。その類の連中がSランククラスと言われているので。SSランクのファイヴスホーンオーガは、本来人に御すことはできない。
ミィアンが、ファイヴスホーンオーガの血を劣化させずに継いでいて、なおかつ。
今現在の状況が、自分の血を見て理性を失っている状況だとして。
SSランククラスの化け物が、俺とマキアンを襲ってきたら……?
どうなる? 俺達?
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