その戦士さんオーガハーフですよ?
べいちき
1.生命力の権化と出会う事
「その戦士さん、オーガハーフですよ?」
え?
俺は戸惑った。
この目の前にいる、ロリコン嬢ちゃん戦士が。
オーガハーフ?
「どういうことだ? マスター?」
俺は、この街の酒場のマスターに聞き返した。
「どういう事も、何も。そのままですよザクトール魔導師様。その戦士ちゃん、オーガハーフなんです」
はぁ? オーガってアレだろ? 全長5メアト超える巨大個体もいる、巨大亜人種。この嬢ちゃん、身長がせいぜい高く見積もっても、1メアト50セムルありゃいいほうだ。
何の情報錯誤なんだ?
これがそう聞き質すと。マスターは笑って言うのだった。
「ザクトール様。その子はミィアンっていう名前でして。ここら辺では名前の売れたソロ冒険者なんです。この街に来て、1週間の貴方はまだ知らなかったんですね」
マスターはそう言ってクスクス笑うが……。
「ねー。ご飯食べよー。ご飯ー!!」
とか言って、俺の魔導師のローブの裾をぐいぐい引っ張るこの娘。
オーガハーフだなんて聞いてねぇぞ!! いや、俺は種族差別はしねぇ主義なんだけどよ……。オーガの血が入ってるとなったら、話は別だ。
なぜなら、俺はオーガという連中のヤバさをよくよく知っているからだ。
一般の風聞を聞く分にも。
岩でできた棍棒をぶん回して、炎象ファイアエレファントと一騎打ちして打ち倒し、その肉をかっ食らうとか。
牛巨人ミノタウロスと、徒手空拳の果たしあいをして、捻り潰し。その肉をかっ食らうとか。
山の崖から、そこらを飛び回っている飛竜ワイバーンに飛び蹴りをぶち込んで撃墜して、肉をかっ食らうとか。
……なんか肉喰ってばっかりだな、オーガ。
「お肉食べたいぃー!!」
……ミィアンとか言うらしい、俺が迂闊にも、この子が持っていた使い込まれた斧を見てパーティに誘っちまった、オーガハーフ娘が。肉を食いたいという。これはオーガの血が入っているから、肉が好きなのだろうか?
「まあ、アレですよ。時折問題行動を致しますがね。戦士としては頼りになる子です。ザクトール様は、良識と分別がありそうですし。上手くフォローしてあげてくださいね。しばらくはパーティを組むという契約書を。もう書いてしまったんですから」
なんというのか。意地は悪くないのだが、大変ですよ? という意味を暗に含ませたような、酒場のマスターの笑い声。俺は、どういう戦士を仲間に誘っちまったんだろうか?
* * *
「よく食べるわねぇ……。というか。私たちの分まで食べてるじゃない」
マキアン、という名前の俺と組んでいる女神官剣士が。ジンジルの根っことガーリクの根っこをすりおろしたものと、豆を発酵させたジャーユという黒いソースで漬け込んで味をつけたピゴーグの肉を鉄板焼きにした、薫り高い料理をガツガツやっちまってるミィアンを見て呆れている。
「もふぁ……!! うま、うまー!!」
「……あのよう? ミィアンちゃん?」
一心不乱に、目を血走らせて。肉をがっついているミィアンに俺は声をかけた。
「しばらく食ってなかったみたいな喰い方だな? 君、金ないのか?」
「むごむが、ごくん。うん! 騙されて、お金全部取られたー!!」
あっけらかんと笑う、ミィアン。おいおい、騙されたんならもっと恨みがましい顔してろよ。
「ミィアン、さん? って言ったかしら? 誰に騙されたの?」
マキアンが、まあ。控えめに言っても色香迸る挙動で足を組む。この神官剣士女は、堂々たる男性遍歴の持ち主で。某国の将軍とか某協会の大司教を骨抜きにして破滅させたりした過去がある、まあヤベェ女だ。
「さあー? アタシそう言うのわかんない! お金くれたら、家族が助かるんだって。毎日アタシの所にお金くれって言ってくる人がいたから。あげてたらお金なくなったーの!!」
「……こんなバカな娘さんを騙すなんて。世知辛い世の中ねぇ……」
「ほうあう?」
「いいのよ。バカは考えないで。それよりも、お肉は全部食べていいから。戦士として、私たちのパーティで活躍してね」
「うん! わかったったー!!」
まあ、なにはともあれ、こうして。次のクエストに必要な物理アタッカー要因であるミィアンがパーティに加わったのだ。
* * *
俺とマキアンは、このエーテルガルドと呼ばれる自然と怪異多き世界で。
まあ、当てもなく行きたい所に行き、生きたいように生きるという事をしている、冒険者というよりも快楽追及者だ。
快きことを為し、楽しきことに重きを置く。それを追及する者なんだな。
その行動の為に、情報収集と金銭稼ぎの手段として冒険者もやる。
ちなみに、俺の快楽とは。この世の理を追及すること。
マキアンのそれは、豊かさの追求と女磨き。
そんなことを考えて冒険者を稼業としている奴は実は少ない。
だが、そりゃ別に構わないのだ。
人間というものは、目的目標がしっかり見えていようがいまいが、それを考えていようがいまいが。
ある意味では全ての人々が、快楽追及者なのだから。
* * *
「んじゃ、行くぜ? マキアン、それにミィアンちゃん」
「ターゲットは、魔導術無効のマシンギガント。鋼鉄の巨人。だったわよね?」
マキアンが、クエストへの出立の時に。俺に確認する。
「ああ。だから、魔導師の俺にできる事はお前とミィアンちゃんに対する強化魔法をかけるくらいだ。マキアン、お前の剣術剣技は、まあ常識外れに凄いんだがな。お前の筋力不足で、攻撃の圧がいまいち低い。そこに、あのオーガハーフちゃんが入ったんで……。こら! ミィアンちゃん!! なにやってんだ!!」
「もごもごもご」
おうぅ! 街はずれの草むらに頭突っ込んでたミィアンちゃんが。
こっち振り向いたら。
素手でラビッタを仕留めたらしく、引き裂いて生でモグモグやってる。
……野性の空気が、心に流れ込んでくる。
俺がそう思って、マキアンの顔を見ると。
何とも言えないものを見るような真顔で、マキアンは思案顔。
「……ある意味、頼りにはなるわねぇ」
何を思ったか、そう言うマキアンであった。
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