運を味方につけるには【KAC20236テーマ:アンラッキー7】

777

 そのスロット機は、どこにでも現れた。

 パチスロの店内、ゲームセンター、飲み屋街の片隅、カラオケ店、ファミレスにも。

 人の気の緩みそうなところに、いつの間にか置いてあって、いつの間にか撤去されている。


「って噂を聞いたんだよ。面白そうじゃね?」


 そう言ってきたのはタル夫だ。こいつは顔が広くてどこに行っても知り合いに合うし、性分なのか、こういった下らない噂話をいろいろ集めてくる。


「別にスロットぐらいどこにでもあるだろ」


 タル夫の話は適当に聞き流して酒のつまみにするくらいがちょうどいい。

 俺はグラスを口に運ぶ。


「それが、ただのスロットじゃないらしいんだ。絵柄が揃ってなくてもコインを吐くんだと」

「故障じゃね?」

「吐かないこともあるらしい。しかも、絵柄が揃ったら宝くじに当たったり、病気が治ったり、恋人が出来たり、とにかく運が良くなるんだと」


 タル夫が興奮気味に捲し立てる。

 ああ、こいつ酔いが回ってきてんな。


「で、たぶんこれがそれ」

「は?」


 タル夫が俺達の後ろを指す。

 振り替えるとすぐ後ろに一台のスロットが置いてあった。


「こんなところにスロット置いてあったっけ」

現れたんだよ・・・・・・、神出鬼没のスロットが」


 筐体全体は黒塗りだが他はよくあるデザインだ。


「いや、噂だろ?」

「噂には火元があるから噂なんだよ」

「どうだか」


 コイン吐き出し口に一枚のコインが置いてある。タル夫がコインを手に取った。


「なあ、やってみねえ?」

「おう、好きにしろや」


 俺は見物を決め込む。

 タル夫がコインを入れた。

 軽快な音とともに絵柄が回り始める。

 タル夫はすぐにボタンを押した。

 絵柄は三段斜め全てバラバラだ。

 当たり前のようにジャラッとコインが5枚出てきた。


「ほらみろ、外れたのにコイン吐きやがった」

「嘘だろおい」

「これ、777でたらどうなると思う?」

「何も起こらないんじゃね? 設定バグってんだろ」

「やってみるか!」


 タル夫がコインを入れる。

 軽快な音で回り始める絵柄。

 タル夫は鼻唄混じりにボタンを押した。

 中段左端に7が止まった。


 突然、アラームがなる。


『緊急速報、緊急速報。15秒後に地震が来ます。震度5以上。身を守る行動をしてください』


 店の災害検知システムが作動したらしい。

 震度5以上は大地震になる可能性がとても高い。

 店内に緊張が走り、他の客がテーブルの下に入ったり店を出たりしはじめた。


「噂には続きがあってさ」


 タル夫が二つめ三つめのボタンを押す。

 地震来るのに呑気にスロットやってんじゃねえ!!!!


 画面に7の文字が揃った。


 そろそろ15秒だ。

 テーブルの下からタル夫に声をかける。


「お前も早くこい!」

「7がひとつでも画面に出ると不幸なことが起こる」

「は?」

「でも、777揃えられたら大きな幸運を掴めるんだと」


 地震は来なかった。


「巻き起こる不幸に負けずに7を揃えられるってそもそも強者な気がするけどね」


 筐体は消えていた。

 そして、いつも通りのタル夫が酒を手に取った。


「飲みなおそうぜ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

運を味方につけるには【KAC20236テーマ:アンラッキー7】 @ei_umise

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ