R.B.ブッコローの知らない〝異〟世界

海猫ほたる

R.B.ブッコローの知らない異世界

 気がつくと、俺は真っ白な空間の中にいた。


「目が覚めましたか、R.B.ブッコローよ」


 話しかけて来たのは、ギリシャ彫刻風の服をしたコスプレを纏った郁さんだった。


「郁さんじゃないすか、どうしたんすかそんな服装で……ていうかここ何処ですか?」


「R.B.ブッコローよ、何か勘違いをしているようですね。私はあなたの知る郁さんではありません。女神イクです」


「……え?」


「あなたは死んだのです。そしてここは女神の部屋です。短編で文字数がないのでサクッと行きますね。あなたはこれから、異世界ユーセカに転生する事になるでしょう」


「ま、まさか俺、流行りの異世界転生するんすか!」


「そうです」


「じゃ、郁さん、俺にチートなスキルをプレゼントしてくれるって事ですね」


「ええ。あなたにはチートスキル【1.2倍までのオッズで単勝に賭ければ必ず勝てる】を授けましょう」


「ビミョー……もう少し何とかなんないんすか、せめて三連複、無理なら馬単でも」


「ダメです。単勝しか勝たんです」


「いや馬連くらい、いいっしょ……なんとかおまけして枠連……」


 頑なに首を振り続ける女神イクに、俺はしぶしぶ折れるしかなかった。


「……わかりましたよ、そのスキルでいいです」


「……そうですねー、可哀想なので【ダート2100mの時だけなら1.5倍まで勝てる】バフも付けてあげますね」


 そもそもこのスキル、異世界で使えるのだろうか……


 そんなこんなで異世界ユーセカにやってきた俺は、街らしき場所にやってきた。


 イセザーキシティという街らしいが、なかなか人が多くて賑わっているいい街だ。


 まず装備を整えようと、店頭に武具が飾ってあるショップを発見した。


 入口には『魔導書専門店ユーリンチー』と書かれている。

 武具が飾ってあるからてっきり武器屋かと思ったら、魔導書の店なのか。


「いらっしゃいませ、あら可愛らしい鳥さん……この辺りでは見ない鳥ね」


 ショップに入ると、眼鏡をかけたポニテの女性店員が出迎えてくれた。

 ていうかこの人、ザキさんじゃないか。


「あれ、ザキさん、ザキさんも異世界に来てたんすか」


「ザキ……誰ですか。私はそのような名前ではありません」


「え?だってどう見ても……」


「私の名は、サキオーカ・スイートピーです」


「誰……」


「アイテム鑑定士王になり損ねた女……とでも呼んでください……ふふふ」


 ザキさん(にそっくりな店員さん)はそう言って一人くすくすと笑う。


「それはそうと、この剣いいでしょう?買いません?」


 サキオーカさんが出して来たのは、刀身が透明な素材で造られた剣だった。


「へえ、綺麗な刀身の剣ですね」


「ガラス剣です」


「ガラス剣……そんな弱そうな剣で大丈夫なんすか……ていうかここ魔導書の店じゃないんすか……」


「細かい事を気にしてはいけないわ。ガラス剣は一見もろそうに見えて、とても頑丈なの。ガラス剣は【毛細管現象】によって、大気に漂う魔気をその身に吸い入れて、魔剣として扱う事ができるの」


「それはいいっすね」


「ガラス剣は繊細なの。この魔紙で拭いてお手入れをする事をお勧めするわ」


「へえ、なんていう紙なんすか」


「▆▛▙▊▚▄▛▙です」


「いやわかりませんって……」


「▆▛▙▊▚▄▛▙です」


「ちょっと、なんかここだけ異世界風の名前が思いつかなくて無理矢理モザイクにしたみたいになってますよ……まあ良いや、じゃその魔紙も売ってください」


「あ、魔紙の方はうちでは扱っていません」


「じゃあなんで勧めたんすか……もう良いです。ガラス剣だけ買いますよ」


「ふふ……お買い上げありがとうございます」


「ちなみにこのガラス剣のお値段の方は……」


「10万オカネーです」


「高っ!もうちょっと安い店で買おっかな」


「他の店のガラス剣はすぐ折れるわ」


「え……」


「それに他の店のガラス剣は、全然切れないわ」


「……容赦なくディスりますね。わかりましたよもう、買いますよどうせ女神のスキルで稼いで取り返しますし……はいオカネー」


 ガラス剣を買った俺は意気揚々と店出た。


「よーし、ガラス剣試し切りしちゃうぞ」


 街を出て少し歩くと、遠くの方に人だかりが見える。


 ちょうどそちらに向かう人が近くにいたので、何があるのか聞いてみる事にした。


「ああ、あれはこのイセザーキシティで毎週末に行われるスライムのレースなのさ」


 なんと、レースと聞いたら行かないわけにはいかないな。

 早速、人混みの方に向かうと、間仁田さんによく似た人が声を上げるいる。


「さあさ、スライムのレースやってるよ!今日はG1のレースだよ!」


「あれ、間仁田さんじゃないですか。間仁田さんも異世界に来てたんすね。俺っすよブッコロー」


「うん?俺の名はマニータだが?」


 どうやら間仁田さんとよく似た別の人らしい。つくづくこの異世界、ゆーせかの人に似た人が多いな。


「それにしてもあんた、この辺りでは見かけない鳥さんだね。どうだいスライムのレースに出場してみないかい?」


「スライムのレースに鳥が出てもいいんすか」


「まあ、良いだろう。優勝したら景品が貰えるよ」


 レースに賭けに来たのに、流れで自分が出る事になってしまった。


 マニータさんに案内されてコースに着いた俺は、周りを見渡した。


 俺の周りでは屈強なスライムたちが伸びたり跳ねたりして準備運動に勤しんでいる。


 予想以上に強そうな対戦相手達……これは負けるかも……


 しかし、そこで俺はあることに気がついた。


 このコース、ダートじゃないか!


「マニータさん、このコース、何メートルですか?」


「ん?確か……2100mだったはずだよ」


「マジっっすか!じゃあ俺のオッズはどうなってます?」


「ブッコローさんは……ちょうど1.5倍だね。結構人気あるなあ。スライムのレースに鳥が混じっているのが珍しいのかな。自分で自分に賭ける事も出来るけど、どうする?」


「賭けます!俺は自身に単勝で!」


 するとどうだろう。身体の奥から、みるみる力が湧いてくるのを感じる。女神イクから貰ったスキルが発動したのだ。


 うおおおおおおおー!


 レースが始まると同時に、物凄い勢いで俺は疾走した。


 結果、俺の圧勝だった。


「おめでとう、ブッコローさん、優勝だよ」


 ニコニコと笑顔でマニータさんが出迎えてくれた。


「ありがとうございます。そういえば、優勝したら何か貰えるって言ってましたよね?」


「ああ、そうだった。優勝景品は三代目蛍光ガラス剣だよ」


「そんなにガラス剣ばっかりいらないっすよー」


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R.B.ブッコローの知らない〝異〟世界 海猫ほたる @ykohyama

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