とある殺人犯の呪縛

高久高久

7に狂わされた男

「7、ですか?」

「ああ。俺にとって、7という数字は不幸の象徴だ」


 分厚いアクリルボード越し、自嘲気味に男が笑った。

 刑務所の面会室、向かい合っているこの男は通り魔であり大量殺人を犯した殺人犯。死刑が確定したこの男の記事を書く事となり、俺は後輩とインタビューを行う事となった。


「普通の奴は7はラッキーナンバーとかいうだろ? 俺は違う。本当なら口にもしたくない」


 冗談でも言っているのかと思ったが、心底嫌そうな表情から嘘を言っている様子は無い。


「何故、その様に?」

「この数字には本当碌なことが無い。例えば腕を折ったのは6月の27日。両親が死んだのもこの数字が付く日だ」

「偶然、では?」

「俺もそう思いたかった。そう、信じたかった」

「今回、この事件を起こした動機というのは? 被害者は7――」

「その数字を言うな!」


 いきなり男は大きな声を出して立ち上がり、後輩が「ひっ」と情けない声を上げた。男は興奮した様子だったが、すぐに「悪かった」と座り直す。


「――女が居た」

「は?」

「付き合っていた女だ。名前が、ナナだ。奈良の奈が続いて

「えっと、その名前では……」

「ああ、俺も最初は抵抗はあった。でも、暫くの間は何もなかった。だから俺は思ったんだ。あの数字の呪縛は解けたって。そんなことないのにな」


 また男は自嘲気味に笑う。


「ずっと騙されていた。俺は単なる金蔓。別に男が居たんだ。俺と付き合う前から、ずーっと」

「……それが、動機ですか?」

「いや、違う――アイツの事が解って、俺が思ったのは『悔しい』とか『殺してやる』って事じゃない。核心だ。『この数字に呪われている』っていう、な」


 男は大きなため息を吐いた。


「……あの日、あの道を歩いていた時だ。向かいから集団がきた。その人数が――7人だったんだ。だから、減らさないとって思ったんだ。そうしたらドンドン人が来る。どう頑張っても、7人になっちまうんだ。減らさないと、そうしないと、また碌な事にならないから――それを繰り返していたら、後はアンタも知っての通りだよ」

「……そうですか」


 それだけ言うと、面会時間は終わった。男は最後に呟いていた。「結局、俺は逃れられなかった」と。


「先輩、この話どう思います?」


 刑務所を出て、後輩に聞かれた。


「7に呪われているって話か?」

「はい。だって、被害者数が――」

「死んだのも、負傷者も7人だったな」

「こじつけかもしれませんけど……」

「……正直そんな呪いとか信じてないし、わからないけどよ。あの男には7って数字はずっとついて回ってたんだよ。アイツの名前、考えてみろよ?」

「名前、ですか?」

「ああ、アイツの苗字は間だろ? 単なる偶然の思い込みか、それとも生まれついて不幸って考えるべきか……俺にはわからねぇよ」


 ――後日。漆間の死刑は執行された。

 その日は、7のつく日であった。

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とある殺人犯の呪縛 高久高久 @takaku13

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