第17話 いざ魔王との食事会へ
微妙な空気が漂ってはいたが、夕食の時間となったので先程の侍女がカレンとグミを呼びにやって来た。この時には、二人はあーだこーだと話をするくらいには状態が戻っていた。
すぐに支度する旨を伝えるが、その前にすっかり忘れていた事があった。
「あっ、体の汚れは落として着替えないと……」
そう、身なりの事である。最初は旅からの直行だったから仕方のない話だったが、さすがに夕食の席に呼ばれたとなるとそれなりの身なりを求められる。というわけで、グミは早速行動に移す。
「すぐに支度するので、着替えの服を用意してもらえないかしら」
「畏まりました、グミ様」
というわけで侍女を部屋から遠ざけると、
「というわけで、さっさと体をきれいにするわよ!」
と、カレンに対して魔法を発動する。
アサシンスライムのゼリアとグミは、魔法もかなり使えるエリート級の魔物であるのだ。解毒魔法も使えるスライムなど、ゼリアとグミの二体しか存在しない。
今回使ったのも、この二体しか使えない浄化魔法。スライムの何でも捕食する性質を応用した魔法である。この魔法に包まれたカレンの体は、汚れや汗などがすっぱりと払われていく。着衣のままできれいにできる上に、まったく濡れる心配もないし呼吸困難になる事もない。安心安全の魔法である。……本当はこのまま食べる事もできるのだが、カレンに気付かれたらワンパンされるので使うはずもない。
「……驚いたわね。スライムのくせに器用な真似ができるのね」
「暗殺を得意にするスライムをなめないで頂戴」
グミがドヤ顔を決めているらしいが、いかんせんスライムでは表情が分からない。カレンはおかしくて笑っている。文句を言い掛けたグミだが、これだけ素の感情を見せているカレンは珍しかったので、その言葉を飲み込んだ。
(なによ。普通に笑顔もできるじゃないの)
飲み込んだ言葉を内心呟くと、ギロリとカレンに睨まれた。悪口は口に出さずとも聞こえるのだろうか。
しばらくすると、さっき出ていった侍女が数人連れて戻ってきた。ドレスだろうから着付けが大変なのである。コルセットとかコルセットとかコルセットとか。
ドレスに着替えるために、グミも人型に姿を変える。何気にカレンには初めて見せる人間形態である。
「へぇ、思ったより可愛いのね」
カレンから意外だと言わんばかりの言葉が出てくる。グミの取った姿はカレンより背が低い、さわやかなオレンジの髪の少女である。
しかし、その姿を長く見てもいられなかった。グミが変化した瞬間に、控えていた侍女たちが一斉に着替えの作業に入る。カレンも着ていた服を引っぺがされ、あっという間にドレスを着せられてしまった。
用意されたドレスはお互いの色を意識したものだ。王族同士の初顔合わせの食事会なので、普段使いを少し派手にしたものである。
カレンは金髪碧眼に合わせたかなりうっすらとした青色のドレスだ。体形に合わせてあるのでそのスタイルの良さがよく出ている。あと、筋肉もよく目立つ。
グミの方はミントグリーンのふわふわとしたドレスだ。アサシンスライムだし、言葉もわがままっぽいのでどこか勝気なイメージだったが、どっちかというと活発な少女というイメージである。というか、なんで幼女スタイルでそんなに胸があるんですかね。大きさ的にカレンとほとんど変わらない。それなのに幼女体型のせいで余計でかく見える。まぁ、カレンは気にしていないようだが。
カレンたちが案内されたのは、魔王たちが食事をするいつもの食堂だ。無駄に広い。
「魔王様、お待たせしまして大変申し訳ございません」
グミがカーテシーをする。魔族の間にもこういう挨拶は広まっているようである。
「気にするな。そちらのカレン姫は魔族領に来たばかりだ。少々の遅れくらい問題は無い」
魔王の器量は大きかった。
それにしても魔王は見るからにイケメンである。すべてが黒っぽい色で構成しているにもかかわらず、受ける印象は色とは正反対のさわやかさである。むしろ眩しい。
「お気遣い、ありがたく存じます。さ、カレン様、お掛け下さい」
挨拶を終えたところで席に着く。さすがにいろいろ経験してきたグミは侍女の真似事も完璧である。カレンは普通に動いているが、魔王に見惚れすぎて言葉をまったく発していない。そのせいか黙っていれば美人を地で体現していた。
全員が無事に席に着いた事で、緊張の食事会がいよいよ始まった。
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