第7話 グミの心情
ゼリアが王宮で奮闘している頃……。
「はぁっ!」
城を抜け出したカレンは、グミの擬態する外套をまとって魔物を素手で倒していた。ゴブリンだとかウルフだとか、すべてが拳一発でぶっ倒れていく。その様子を見て、グミは改めてカレンの恐ろしさを思い知らされていた。
「ひぃぃっ、あたし、よく生きてるぅぅぅっ!!」
城を抜け出したカレンは、グミの擬態した外套をまとった状態で近くの街で冒険者登録を済ませていた。名前は自分に付き合わせているアサシンスライムの名前「グミ」を使っている。
この日までにグミは幾度となくカレンを殺そうと試みたものの、その都度あえなくワンパンで沈められてきた。物理攻撃無効のスライムがワンパンである。この姫様は規格外が過ぎる。
そんな心の折れかけた時、姉のゼリアから念話が入ってきた。
どうやら姉はカレンの影武者として城で生活しているらしい。グミとは違い整った環境で生活しているとはいえ、一国の王女としての立ち振る舞いを要求されているらしい。それは、グミとは違った意味で過酷な環境であった。アサシンスライムは成り代わりを得意としてはいるが、脳筋姫の代役などはたして務まるものだろうか。
ともかく、姉との念話で、グミはカレンの護衛とへとジョブチェンジした。守るまでもないほどの強さを誇っているとはいえ、外の世界は何があるか分からないのだ。グミは盛大なため息を吐いた。
ゼリアとグミは同じアサシンスライムではあるが、本当の姉妹ではない。スライムは分裂で増えるので、そういった概念はそもそも存在しない。
ゼリアとグミの二人は、たまたま会った際に姉妹の契りを交わした魂の姉妹というものである。お互いに何か惹かれ合ったのだろう。その結果、使えるようになった能力の一つが念話である。距離の制限はなくいつでも会話ができるという能力で、これによって二人は高い任務遂行率を保っていた。スライムの状態でも言葉が喋れるのも、この二人ならではの能力だ。本当のスライムであれば、擬態した状態でも喋る事はできない。思考を風魔法に乗せる形で喋っているのだ。
「グミ、近くに魔物は居る?」
「いえ、もう辺りに居るのはあたしだけです」
「そう。じゃ、ちょっと休憩するかな」
魔物が居なくなった事を確認すると、カレンはその場にドカッと座り込んだ。とても一国のお姫様とは思えない行動である。
カレンが休憩に入ると、グミは擬態を解いて倒した魔物の処理をする。そのまま放っておくと魔物が寄って来るだけではなく、土地に悪影響を及ぼしてしまう。それこそ延々と毒が湧き出る事だってあり得るのだ。魔物の核となる魔石を体から取り出すと、魔物は一瞬で消滅してしまう。なので、肉や皮といった素材が必要な場合は、魔石を取り出す前に剥ぎ取る必要があるのだ。
グミは魔物を解体すると、それを使って食事を作る。余る分は自分の体内へとしまい込む。収納袋という特殊なスキルで、ゼリアとグミは二人してこのスキルを所持している。
「うまいな、グミの料理は」
「一応これでも、城に潜り込んで料理を作った事があるので。任務のためならあらゆる努力は惜しまないんですよ、あたしたちは」
グミは料理に毒を盛ろうとも考えた事もあったが、並外れた危険察知を持つカレンには通じなかった。そこでも
ただ、カレンは粗暴な脳筋姫ではあるものの、根はとても純粋で優しいという事が分かった。暴漢が居ようものなら、四の五の言わずまっすぐ右ストレートで撃退していた。また、そこらの野に咲いた花を見て優しそうな笑みを浮かべていたのは、特に印象深かった。ワンパンは怖いが、グミは次第にカレンに惹かれ始めていた。
「なーんか調子狂うなぁ……」
グミはぽつりと呟いていた。
「ん、どうかしたのか?」
「いや、なーんでもないわよ」
グミがぷいっと顔を背けると、「そうか」と言ってカレンは食事を平らげていた。
そして、食事を終えると、カレンとグミは再び歩き始めたのだった。
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