第一章 とあるネコの生活


私はとある捨てれんが倉庫に訪れた

そこで一つの奇妙な箱を見つけたのだ。


そこには一匹の猫

これが噂の猫又の棲家…


人語を話し、それでいて私達人間より博識と聞いていた。


箱を開けると

猫又は好奇でそれでいてゆっくりと

私を見上げて言葉を紡ぎ出した。


おや、珍しい…

人間の貴方に私の寝ぐらの箱を開けなさるとは


まさか、私に好物のカツオフレークを差し入れてきていただいたのでしょうか?


それだとしたらなんとありがたい

私が知っている人間の印象は悪いもので

なんだかわからんこの箱に入れられて

暗くて狭い思いをさせておきながら


外で何やら人間の皆様は言い合いをしているようでしてずーっとこのまんまでした


まあ、今としてはおかげさまでこの環境も慣れましてねえ

住めば都と言うんでしょうか

なるほど快適に寝ぐらとしていただいてます


少し不満があるとしたならば

外がやかましいわ

いざ自力で外に出ることはできたのですが

ゴツゴツと瓦礫が積み上がってるじゃありませんか


なんでこんな騒がしい場所になってしまったのは全く見当もつかなかったもんですが

今は慣れたのでだいぶ克服した私を誰か褒めていただければ嬉しい限りです。


さてさて、このしがない猫になんの様ですかな、久しぶりの客人に私はつい嬉しくてね

余計に話してしまいました。


なんと、人語を話す不思議なネコがいるので

取材に来たと⁈


これは滑稽な話だ、しかも愉快でもある

久しぶりの人間にもこのような物好きがいたとはな、よろしい私も一匹故に暇を持て余していたところだよ。


よろしいでしょう、多少このしがない猫の愚痴もあるが長年の経験した知識を貴方にお伝えいたしましょう。


しかしながらこんな箱の中にお上りなさるのはさすがに貴方には窮屈すぎる。


故に私の静かなお気に入りの場所で

ゆっくりとお話しようではありませんか

勿論、人間でいうオモテナシはさせていただきますよ。


そういうとゆっくりと箱からひょいっと飛び出し丁寧に猫の前足で箱の蓋を閉め私の歩くスピードに合わせ先導していった


それは私達人間より丁寧で心遣いのある仕草であった。


どこか他の猫や人間等とは違う気品のある態度に私は関心と好感を感じた。


それが私と猫との長くも興味深い出会いだったのである。


ネコの先導についていくと

そこは湖の見える森の中の公園だった。

そこには散歩の疲れを癒すための木製のテーブルとベンチがある


ネコは驚いたことに直立二足歩行をし

十六茶のペットボトルを2本持って来たのである!?


そう言えば、私達はお互いの名前を交わしていませんでしたな、私の名前はそうですなあ

  ケット=アルデリッヒ=シーバス2世

と申します。


あなた様は?

ほう、脇坂達也(仮名)と申されますか


ならば、呼びやすい様に達也どのとお呼びしてもよろしいですかな


私はネコ、いや彼のことをシーバスさんと

呼ぶことにし、それを許された。


達也どの、冷たいうちにお上りなさい

私も長く生きてきますとこの通貨という概念を知りましてな、自販機というところでたまに拾って貯めた硬貨という物を入れてこのお茶を愛飲してるのですよ、しかも、今の時間帯なら人通りはないので

自由に歩けます。

しかも私が人間達の言葉や歩きを話しても目立たないですからな。


さてさて、この私をみて、なるほど奇怪で珍しいと感じたみたいでなぜその様になったところからお話したほうがよろしいですかな


その様な顔をしていらっしゃりますな

はたまた悪い言い方をすればネコマタという

妖怪ではないかとも感じたでしょう?


あ、気になさらず…

確かに私はネコ、人間と同じような動きや言葉を話せば妖怪と思われるのは至極当然


このケットの名も初代は伝説のケット・シーと呼ばれております。しかし、私は分家…

以前は普通のネコだったのですよ

あなた方の言葉では隔世遺伝による特性と

仰るかもしれませんしメンデルの法則で立証してくださるんでしょうな


しかしながらこれにも要因があるのですが

これは生物学的にも化学分野的にも立証には程遠い要因なんですよ


達也どの貴方はシュレディンガーの箱という量子力学の論文を知ってますかな?


シュレディンガーの箱と言うのは確か…

猫を実験台にした思考実験と言った所だろう

確か放射性物質とシアン化カリウムを使った

生死の確率の中の事象を閉ざされた箱の中にいるネコが生きているか死んでいるかを論じ

従来の物理事象の不確かな性格を説いたものと確かYouTubeか何かで聞いたことがある。


その箱が私の寝床なんですよ

しかしシュレディンガーの実験をご存知ならばいずれかの確率で死ぬことになるわけですな、私ももし放射性物質が漏れてシアン化カリウムが流出していたら

この世にはおりませんでしょうな


しかし、なぜ生きていたか

放射性物質は遺伝子の配列を破壊し再生能力ができないことで白血病やら細胞を破壊されていくと言う特徴はご存知であろう


しかしこの破壊がちょうど良くこの私の体に進化という形で作用した偶然の産物であり、この知能や識字能力を備わり

このような生活が可能になったのが結果論なんですよ。


まあ、達也どのの言う通りに死骸となるというのが実験体の運命というのも知っておるが


あの研究生達は中を確認せずこの箱ごと廃棄したこの怠慢で新たな発見を逃してしまったわけですな、実に勿体無い話ではなかろうか


全ては様々な事象によって幾つかの結果論に分かれていく、その事象の一つだったわけだよ。


ようするにシュレディンガーの箱からくる結果論は

「その箱をあけてみないと確かな事象の発見は得られない」


達也どのの出会いもその一つだと、わかるはずではありませんかな?


シーバスさんの言葉はまるで物理学の教授と会話している感じを覚えた。


それは私にとってとても心地よく

理系の難解な言葉でも文系の私でも知の探求心をくすぐらせる内容で次第に私はシーバスさんの話の世界の深部に優しく好奇していくのだった





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