第43話 ちょっと一息

「“火蟠白かばしら”」


 両手から生み出されたたくさんの小さな火花が、日光を反射して白く光りながら的へと殺到する。

 纏わりつかれた的の表面は少しづつ焼かれ始め、数秒後には所々虫に喰い破られた様に無残な姿で焼け落ちて地面を焦がした。


「ふぅ……制御が大変だ」

「おめでとうございます、これで二つ目の技能も習得でございます」


 ソファトに悩みを解消してもらい、ステータス化の実験に前向きになってから一週間たった。

 僕はまだ実験に着手しておらず、エバンスから与えられた課題をこなしている。


「ありがとう。でも、“火球かきゅう”と違って複数を操るのは骨が折れるね」


 悩みがなくなった以上早く取り掛かりたくていつ実験を始められるかシェリカに聞いてみたのだが、犯罪奴隷を前線から連れてくるための手続きや実際の移動に半年ほどかかると言われてしまった。

 そうなるとやれることは僕自身の戦力強化しかないので、今日も今日とて技能と向き合っている。


「それでもこの速さで身につけられたのは流石でございます。初級技能の中でも難易度の高い“火蟠白かばしら”をたった一週間でとは……」

「“火球かきゅう”で火の制御能力を鍛えた成果だね」


 しみじみとした様子で語るエバンス。

 “火蟠白かばしら”は必要な魔力が少なく制御だけが肝だったので、ゲームの様子を思い起こしながらの修練を意識すれば形になるのは早かった。


「これなら学園入学前に中級に手を出していいかもしれません。ゆくゆくは上級も習得できるかもしれませんね」

「それは胸が躍るね」


 正直中級の一部ならともかく、上級技能は無理だ。

 “火蟠白かばしら”等はその見た目と制御方法が直結していてわかりやすかったが、上級は何が何だかさっぱりわからない。

 まるで生き物のようにほとんど自立思考してるんじゃないかと感じる動きをする火の鳥や、ほんの指先サイズの小さな火が辺り一面の生き物だけを燃やし尽くす黒炎になったりするのだ。

 その他にも、一体どんな制御方法なら可能なのかという技能がわんさかある。ほとんど特殊技能だろというそれらが上級技能と呼ばれ、適正さえあれば誰でも扱えると言われている。


「ですが本日の修練はこの位にいたしましょう。お茶の準備が出来ておりますので」

「え?お茶?」


 ポカンとしてしまったの僕をそのままに、そのエバンスの発言で端に控えていた使用人達が庭のテーブルにてきぱきと食器などを運び始める。

 修練をしていた面々は思い思いの反応でそれを見ており、真っ先に口を開いたのはキゼルだった。


「えぇ~、せっかく感覚がつかめそうなのにぃ」

「その上達の速さは流石でございますが、会話から気づきを得るようにともお願いしたはずですよ」

「う……はぁ、わかったよ」


 相変わらず火の物質化に苦戦しながら修練していたキゼルは抵抗しようとしたが、エバンスによって丸め込まれてしまった。

 前に約束した手前断れないと悟ったキゼルは渋々といった様子でテーブルへと歩いていく。


「行きましょうラトゥさん!」


 いつも通り僕の近くで二つ目の課題である火を纏う修練をしていたリテはさっさとその火を消化するとテーブルに向かって駆け出し、途中で追いついたキゼルの腕を掴んで早く早くと催促し始めた。


「わ、わかった、わかったから。も~落ち着いてよリテ」

「早くっ!あ!ほら見たことないカップですよあれ!!」

「さ、坊ちゃまも参りましょう。勿論ソファト様も」

「わかりました」


 そんなキゼルとリテの様子を微笑ましそうに見守っていたエバンスも歩き出し、ある程度離れたところでようやくソファトも日課の木からこちらへと歩き出した。

 僕は状況をよく分かっていないままその場に立ち尽くし、賑やかな様子を眺めている。


「これでようやく修練同期全員揃ってのお茶会ができるって訳、よかったわね」

「……あぁ!お茶会か!」


 一歩も動かない僕の肩を軽く叩いてそう話すソファト。

 そこまで言われてようやく、顔合わせの時に出来なかったお茶会を改めて開催するのかと思い至り疑問が解ける。


「あぁって、忘れてたの?」

「いやぁ、ははは……」

「ラトゥが言ったんじゃない、四人揃ってとびきり楽しいお茶会にしようって。私楽しみにしてたのに」

「ごめんね……でもソファト、誰とも仲良くしてないよね?本当に楽しみにしてた?」

「……さぁどうかしらね?」


 少し寂しそうな表情で僕の言及を躱すソファトを不思議に思う。

 最近の彼女は何か変わったように思う。こんな風に話すときはお互いに煽り合うような会話に発展していたはずなのに、ここのところそれが無い。

 個人的には距離感を近く感じて心地良いやり取りだっただけに、それがなくなるとどうも彼女との会話に困ってしまう。


「ほら、お嬢様方がお待ちよ。さっさと行きましょう」

「そうだね」


 言葉通り、さっさと歩き始めたソファトの後を追うように僕も足を運ぶ。

 何か怒らせるようなことをしてしまったか、それとも僕の考えすぎか。答えの出ない疑問も、このお茶会で何か解決策が出るかもしれないと思い直して席に着くことにした。

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