第27話 ソファトと手合わせ ~三合目・変化~
「坊ちゃま」
「エバンス、どうしたの?」
最後の手合わせを始めるべく開始位置に着いた僕とソファトは向かい合い、構えを取ろうとすると審判を務めていたエバンスが話しかけてきた。
「もう少々休憩を取られたらいかがですか?せっかく全力で手合わせできますのに、消耗していたら勿体なくございませんか?」
「消耗?むしろ僕史上最高に滾ってると思うけど」
「確かに息は上がっていないようですね、ソファト様はいかがですか?汗も止まっていない様子ですが」
「私も大丈夫です。手合わせ三回程度ですし、怪我もしてませんから」
「……かしこまりました。それでは、最後の手合わせといたしましょう。ですが、今回は寸止めではないので私の判断で止めることもございます。ご了承くださいませ」
「わかった」
「わかりました」
後ろ髪を引かれるかのように忠告を残したエバンスはいつでも乱入できる位置まで下がり、改めて僕たちの顔を確認した後右手を掲げた。
僕はそれを確認して半身で構えをとり、ソファトのどんな動きも見逃さないように全体を視界に収めつつ、目線や手元、足元を注視する。彼女の方も一切ぶれずに構えると先程より鋭くなった視線を送ってきた。
「では、はじめっ!!」
僕たちの構えを確認したエバンスが勢いよく腕を振り下ろしながら開始を告げる。
それと同時に僕は思い切り地面を蹴りつけ、一直線にソファトの懐に入るべく距離を詰めた。
「ふっ!!」
そして、微動だにしない彼女に向かって右の拳を思い切り振りぬいた。
「“
一瞬のうちに生み出された水に拳が阻まれる。それでも無理やり押し進めようと力と熱を込めてねじ込もうとするが、まるで生き物のように動きながら蒸発に抗うその水を前に、僕の突きは完全に動きを止められてしまった。
「ぐっ!?」
ついムキになって足を止めてしまっていた僕の横腹を大質量の何かが打ち付け吹っ飛ばす。勢いを何とか殺しつつ着地し、薙ぎ払われた物の正体を探るためにソファトに視線を向ければ、彼女に無かったはずの透明な尾びれが生えていた。
「ごほっ……はぁ、僕相手にそれ使うの?」
「ラトゥの火力ならこれでも十分でしょ?」
嫌味のつもりで言った僕の言葉にそう答える彼女の顔に笑顔は無く、真剣に僕の実力を見定めて本気でやり合う気なんだということは理解できた。
“
その身体を形作っている水は常に水流を生み出しながらうごめいており、例え高温の突きを食らわせたとしても蒸発しきる前に水流によって追加の水が運ばれてきてしまう。そうなると僕の熱が奪われ続けるだけだし、また足を止めたら次にもらう一撃はさっきの非じゃないものになるだろう。
「確かに、僕の火力じゃ完全に蒸発させるのは無理そうだ」
「私もそう思う」
今の僕にあの量の水を一度に蒸発させる術は無い、しかしそれが出来なきゃ僕の攻撃は通らない。彼女も同じことを考えているだろう、正直詰んでる。
「けど絶対油断しないから。攻撃の手も緩めない……
「っつぅ!だろうねっ!」
攻守交替とでもいうように一気に苛烈な攻めを展開するソファト。僕からの反撃を完璧に防ぐ技能を使ったおかげか、意識がかなり攻撃へと偏っている。本来そこに付け入る隙が生まれるはずだが、そもそも僕の地力が低すぎて差し込むべき武器がないのだ。
とはいえ何とか打開策を考えなくちゃ。
「だからっ!なんでこれが避けられるの、よぉ!!」
体力が続く限り、攻撃を避けることはできるからね。
──────────
「……二人とも派手になってきました」
「そうなのリテちゃん?無理してないといいんだけど」
「もう十一歳なのでしょう?
その言葉に反応したラトゥさんのお母さんは心配そうに庭の方へと視線を向けるけど、リテのお母さんがちょっと厳しい言い方で意識をそらした。
「まだ一年も訓練してないのだからわからないわよ、それに戦闘なんて専門外だもの」
「それでよく手合わせなんてさせるわねぇ……」
そのまま二人はまたおしゃべりに集中しちゃって、リテは目の前の美味しいお菓子にかぶりつく。普段見ない綺麗な食器や香りが強いのに上品でもあるお茶も合わせて楽しんでいるもののつい考えてしまう、なぜ誰もリテとおしゃべりをしてくれないのか、と。
この家の使用人さんたちがお茶会の準備をしてくれるっていうから、てっきり修練同期四人でやるのかと思っていたのに。
キゼルさんはラトゥさんのお父さんと訓練するって言って出て行っちゃって、少し寂しいけど残りの三人とは先に仲良くなれるんだと思った。だから先にお母さんとお話ししてたら三人掛けの机でお茶会の準備が進んでて、見たことないものばかりだったからそれを見ながら大人しく座って待ってたのに、気づけばラトゥさんとソファトさんも庭で手合わせを始めていた。
慌ててお母さんに話しかければ、先に予定を聞いておかないリテが悪いときっぱり言われてしまった。それから今まで楽しくおしゃべりする相手もなく、お菓子とお茶を口に運んでいるだけ。つまんない。
「だからねぇ?──っ!」
急にお母さんの耳がピクリと動き、喋るのをやめて何かを考える仕草をする。
「あらどうかした?」
「ちょっと、一度様子を見に行きましょうか」
「そうね……ここで心配してても仕方ないし、そうしましょう」
「ほら、リテも行くわよ」
「え?」
「見ておいた方がいいわ」
「は、はい」
そうして訳が分からないままお茶会は終わりを告げ、どんどん激しさの増す手合わせ会場へと向かうことになった。
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