第16話 無茶振りに隠された本心

「~~~~っあぁ!!何だ!?何を選べばいい!?」


 母上からプレゼント選びを命じられ商人のジェニスと別れた後、そのままの流れで母上と共に昼食をとるために食堂に向かった僕は、その道すがらや食事の最中で何度か母上にプレゼントを選ぶコツを訪ねようと思った。しかし、その話題の気配を察知した母上は、明らかに笑顔の圧力が増して怖くて聞けなかった。

 そうして食後に自室へと戻った僕は、とりあえず今日の夕食までにプレゼントをある程度決めておこうと決めた。夕食後に父上に時間をもらって“血統技能”について聞くついでに、プレゼントについても一緒に聞いてみよう。母上の圧力の原因が父上だとは思いたくないが、それついても確認しておきたい。


「今朝は急にヒロインが来るっていうから必死に対応を考えて、いつも通りに過ごすって決めたばかりなのに!今まで一度もやったことのないプレゼント選びをやれだって?もうすでにいつも通りじゃないぞ!」


 さて大変だ。

 さっきからプレゼントの方向性を考えているのだが、まったくいい案が浮かばない。


「これもあまり参考にならないよ……書いてある品は全部、領土間や種族間でやり取りされるような超超高級品。こんなの初対面の子供が贈る品じゃないって」


 先程ジェニスからもらった用意できない品のリストに書かれている数品は、明らかに今回準備するには役が不足しすぎている。こんな品をいきなり贈る方も問題だし、贈られる方もその衝撃に顔が引きつって社交辞令も忘れるほどだろう。

 つまり選ぶべきプレゼントの条件は3つ。


「僕くらいの年齢の子供が贈るにふさわしく、上位貴族の格を損なわない質で、友人相手や修行仲間に対して贈る品」


 今回の相手は3人とも女の子であるわけだが、そこに注目しすぎる必要はない。あくまで僕たちは、ともに強さを求めて修行をする同志でありその初顔合わせの為に物という形で友愛を示すのが目的である。はずだ。

 となれば、あまり華の無い品でも実用性が十分ならば今回の贈り物としては合格なはず!


「これだ、この条件に当てはまる品を探そう」


 まずは3人の種族の特性に合った戦闘に役立ち、能力を補助できる品をリストアップして、そこから使用用途や質で絞っていけばかなりいい線行くんじゃないか?



──────────



 そうして選び抜いた贈り物。

 芽兎族がとぞくのキゼルには『甲護の頚飾こうごのくびかざり』、これは彼女の低い防御面をカバーするのに最適なネックレス状の装飾品で、六角形に揃えられた“身代わり石”が正面に5個ついている落ち着いたデザインになっている。数値的に防御を上げるわけではないが、石の数だけ攻撃から身を守ってくれるというものでキゼルの機動力は損なわないはず。

 他の2人の事はよく知らないので、種族的に弱点となりそうな部分を補えるものを選んだ。

 水鯨族すいげいぞくの陸上での移動を補佐する『地掻じかき』は手首と足首にそれぞれ装着するシンプルな赤褐色のリングで、他の補助効果と重複できるので汎用性が高い。

 雷獣族らいじゅうぞくは自身の体毛を電気の増幅に利用しているので、それを助ける『雷来廻絡轆炉らいらいかいらくろくろ』を贈ろうと思う。これは実用性に振り切っていて可愛さの欠片もないが、サイズは小さくどんな装備にも装着できるので効果はばっちりだ。

 3つとも設定した条件にマッチした最高の選択だと言えるだろう。


「どうでしょうか母上!」


 夕食を食べ終え、意気揚々と母上に選んだ品を伝えた。


「……はぁ」


 返ってきたのは盛大な溜息だった。


「えっと。ダメ、でしたか?」

「いいえ、ダメではありませんよ」


 よかった。これで全然ダメだと言われたらめちゃくちゃ凹んでたぞ。でも、ダメじゃないならどうしてため息を?


「本当はもっと女の子を意識した贈り物を選んでほしかったのですが……」

「え?そうなのですか?」

「理由は私の個人的なものだから気にしなくてもいいわ」

「そう、ですか」


 個人的な理由って何だろう?気にはなるけど、母上が話すつもりがないなら今回は深く聞かない方がいいかな。

 何はともあれ贈り物選びは一発で合格だったわけだし、これ以上おもてなしに時間を割かれることは無いだろう。


「この分ならいつか親しい女性への贈り物を選ぶ時も問題なさそうね、安心したわ」

「え!?そ、それはどういう?」

「ラトゥだって上位貴族ですもの、時がくればお相手なんてすぐ見つかるわ」

「えぇ」


 今回はその時のための事前練習だったってこと!?いやいや、それとこれとは話が別だと思うんですが!


「は、母上。その時はさすがに助言をいただきたいのですが……」

「あら?どうして?」

「その、変なものを贈って嫌われたくないですし」

「まぁ!」


 上位貴族の僕と釣り合う女性なんて、相手もかなりの地位や力がないと認められないだろう。そんな相手に下手な贈り物をして関係がこじれたりすれば、当人だけじゃなく家同士でも問題になってしまう。それを避けるためにも女性のアドバイザーは絶対に必要だ。

 それはそれとして、母上。ずいぶん生き生きとしてますね?


「ふふふ、そうね!その時は私がしっかり教えてあげるから安心してね、ラトゥ」

「ありがとうございます母上」

「任せなさい!あなたを、あなたのお兄様のようにはさせないわ!」

「ラキール兄さんですか?」

「そう!あの子ったら全然そういう相談をしてくれないのに、贈り物のセンスがまだまだなのよね。一体誰に似てしまったのかしら、ねぇ?あなた?」

「そっ……そうだな」


 父上、やはり母上のこの圧力の原因はあなただったんですね。

 今の今まで、食後のお茶をすするだけで全然会話に入ってこないと思ったら、この手の話題を露骨に避けていたわけか。

 まぁ、僕も女性向けの贈り物なんてちゃんとしたものを選べる自信ないし、そこはやっぱり父上の子なのかな。


「ラトゥのセンスは私が磨くわ!」

「お手柔らかにお願いします、母上」


 父上には申し訳ないけど、この件に関しては母上につかせてもらおう。こんなに楽しそうに笑う母上は初めて見たしね。

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