第6話 1の札は2の札に負け、2の札は拳で握りつぶせる

 僕は部屋の小物入れからトランプもどきを取り出して二人に一枚ずつ札を配る。


「二人とも札を見て。それじゃあ、どっちが強い?」

「え?ですが……」

「そうですね、私の持つ札は5より大きいですな。シェリカはいかがですか?」

「え!?」


 ふむふむ、エバンスはやっぱり即断即決即行動だね。シェリカはエバンスの問いかけにかなり焦っているし、動揺しちゃってる。なんだかんだ二人ともまじめだし、ちゃんと付き合ってくれるよね。


「どう?答えはわかったかな」

「わ、私は執事長の方が大きいと思います」

「ふむ、私はシェリカの方が大きいと思います」

「じゃあ二人とも札を見せて?」


 結果はエバンスの数字が2でシェリカが3。


「ほっほっほ、私の勝ちですな」

「ええ!?執事長5より大きいってっ!」

「はいはいじゃあ次ね、新しい札を三枚づつ持って。それでエバンスは全部表ね」


 エバンスは何かを察しているみたいだけど、まだ少し違う。シェリカは鼻息荒く手札を見て意気込んでいる。


「じゃあエバンスも一度札を裏にして、お互い好きな順番に並べて、並べ終わったら二人とも同時に札を表にして」


 エバンスの札は3と8と9、シェリカは確実に勝てる組み合わせを考え、エバンスはその裏をかく配置を考える。まあそういう遊びだからそれに集中するのはいいことなんだけどさ。真剣に遊びに興じる二人はまるで祖父と孫娘のようでなんだかほっこりする。


「はい、二人とも決まったね。じゃあ札を表にして」

「あ!執事長に勝ちました!」

「ふむ、さすがに不利でしたな」


 結果はエバンスの9,3,8の並びに対し、シェリカが1,5,10の並びとなった。というか、シェリカの札弱いな。

 さて、シェリカはともかくエバンスはなんとなく気が付いていそうかな。一回目はお互いに数を隠したままの数比べ、これはエバンスが一枚上手で順当な結果だった。二回目はエバンスの数を把握していたシェリカがうまく札を配置して不利な手札で勝ててしまった。この結果でエバンスはステータスの概念を広めたほうがいいと感じるだろう。

 うん、やっぱり僕はまだ広めちゃいけないと思う。


「さて、気分転換もしたし今夜はこれで終わろうか。ちなみに強いのはエバンスね」

「「え」」

「だから、どっちが強いかだよ。まさかシェリカの方が強いの?」

「それは……」

「執事長ですけど……」

「だよね、よかった。じゃあやっぱり強いのはエバンスで、この遊びはエバンスの勝ちね」


 トランプもどきを片付けながら半分寝ている頭を何とか回して喋る。もう眠気が限界で体が重力に逆らえなくなってきたので二人の言葉を聞く余裕がない、どうせ明日も話すんだしそこで聞けばいい。


「札は配ったけど、数字の大小で競うとは言ってないよ。二人にはどっちが強いのかって聞いただけなんだから」


 ほんの遊びだし、ずるい手だし、二度と通用しないと思うけど。

 遊びじゃなく、ずるい手も使えて、二度目はないのが戦いだから。

 僕なんかからステータスを教えられて、それを大事に握りしめながら魔物と戦う?正気じゃないよ、そんなものより剣や拳を握ってほしい。そもそも数の大小なんて魔物には関係ない、彼らには言葉すらないんだから。命がけの相手に『僕の持ってる数字の方が大きいぞ!』って気持ちで向かっていくのは、現実だと冗談にもならないのでは?


「ちょっとでも僕の思いが伝わってくれたらいいな、じゃあお休み二人とも」


 何か言いたそうな二人の背中を無理やり押して部屋から退出させ、ベッドに横になる。いい感じにまどろんできた心地いい気分の中で先程のエバンスの言葉を反芻する。

 『安全に戦える』って?命のやり取りの場で実力以外にすがるなんて危険すぎる。

 『生き残れる』とは違う、死地から逃げた戦士と、死地を乗り越えた戦士の差は果てしなく大きい。ストーリーが進めば敵も強大になる、生き残りには越えられない。


「今のままじゃ到底広められないよ」

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