第3話 血縁無き家族

 その後色々考えているうちに夕食の時間になり、メイドのシェリカが部屋まで料理を運んできてくれた。彼女は僕がこの世界で初めて目覚めた日にも立ち会っており、今はほぼほぼ僕の専属として仕えてくれている。


「お待たせいたしました、坊ちゃま。最初はそちらのスープからお召し上がりになってください、お腹を優しく温めてくれるそうです」

「ありがとうシェリカ、この料理も美味しそうだね」

「料理長にお伝えしておきますね、坊ちゃまがとても美味しそうに召し上がるので最近特に張り切っておりますので」

「え、僕の反応は料理長に筒抜けってこと?」

「はい」


 何それ恥ずかしい!

 前世も含めて味を感じるのは貴重な体験だったから、つい顔が緩んじゃうんだよね。あと、料理長の腕がとてもいい!胃に入った食べ物が優しく体に染みわたっていく!気がする!


「ちょっと恥ずかしいけど、いつも感謝しながら食べてるよ。いつか食堂で直接伝えるからね」

「坊ちゃま……はい、その為にもよく食べて早く良くなりましょうね」

「そうだね。そうだ、丈夫な体作りの為に今度資料室に──」

「それはダメです」


 わぁ食い気味。わかってたけどね。

 それにしても、シェリカの第一印象はおろおろして慌ててるイメージだったのに、今じゃ全然そんな素振り全然ないな。かなりしっかりしてるし、隙のないクールビューティーって感じ。あの時のシェリカとは同じ名前の別の人だったりするのかな。


「あっあれは寝込んでいた坊ちゃまが急に起き上がるのでっ!その、少々驚いたといいますか……」


 え、僕声に出してないんだけど?なんでわかったの?


「最近の坊ちゃまは考えていることがよくお顔に出ておりますので。私は坊ちゃまの専属メイド、旦那様や奥様より顔を合わせておりますから」


 確かに、用があって人を呼ぶといつもシェリカが来てくれるもんな。

 なんだかんだで痒いところに手が届くというか、今のところこの部屋から出られない僕にとってはなくてはならない存在だ。


「いつもありがとうシェリカ、これからも色々手伝ってね」

「ラトゥ様の仰せのままに」

「嫌いじゃないけどあんまりそういう態度とられると寂しいから、また驚かせちゃおうかな」

「なっ」

「やっぱりその顔もたまに見たくなるよね」

「ぼ、坊ちゃま!あまりそういったご冗談は!」

「うん、その呼び方が一番しっくりくるかも。これからもそれでよろしくね」

「~~っ!坊ちゃま!お食事中にお話になるのはお行儀が悪うございますよっ!」

「はぁい、ごめんなさぁい」

「もう!」


 なんだか、看護師のお姉さんのこと思い出すな。

 あのお姉さんはいつも明るくて活発な人で、普段のシェリカとは似ても似つかないのに。でも、今思えばあの時もお姉さんとのお喋りは楽しかったのかな、体がだるすぎて感じる暇がなかっただけで。


「ふふ、楽しいね、シェリカ」

「……それはようございました」


 ちゃんとご飯は完食したし、資料の件も伝えてもらった。



──────────



「『叡智の輪』結成以降、貴族が増えることはあるものの減ることはありませんですぞ、坊ちゃま」


 食後のお茶と共に現れた執事長のエバンスは控えめに言って超優秀だった。

 記憶を手繰って伝えることは誰でもできるだろう。だがは上位貴族の息子で、その僕に対する使用人の言葉一つとっても発する責任は尋常ではないはずだ。にも拘わらず、シェリカから伝え聞いてその足で僕に伝えに来るなんて、自分の知識に絶対の自信がなければできないのではないだろうか?今後はエバンスに資料を頼むのではなく、エバンスに資料になってもらうことにしよう。


「そうなんだ、どうすれば貴族になれるの?」

「手順が三つほどございます」


 曰く。

 一つ、”特殊技能”を持つこと。

 二つ、三世代にわたり継承させ”血統技能”に昇華すること。

 三つ、”血統技能”の有用性を示し『叡智の輪』の六王に認められること。


「──でございます」

「ふむ」


 最初の入り口、”特殊技能”を持つこと。これが一番の鬼門だろうか?

 ”技能”や”血統技能”を上手く組み合わせて生み出すのだが、これがまた難しいらしい。なんといってもここ百年で生み出した例はたったの数件。

 そしてそれを生み出した張本人は、手順二の三世代に継承させるまで生きていられないせいで、後進への手解きがが不十分になってしまう。生み出した成果を継続させるのも、後を継ぐ者の資質に大きく左右されてしまう。

 極めつけは『叡智の輪』の六王全員に認められなければならないこと。六種族から選ばれた六人の王、後継の指名も六王全員の許可がいるので、不正要員を潜り込ませるのもほぼ不可能となる。

 でも、今の僕の懸念ではこの手順三が一番簡単だと思っている。


「『叡智の輪』の六王に有用性を示す、ね」


 回復役のヒロインが持つ”特殊技能”は破格の回復効果を持つ。実際に見たわけじゃないが、ゲームの性能と全く同じだとしたならば、母上の癒しの”技能”の遥かに上位互換となる。つまり、比較対象のある癒しの技能は有用性が示しやすいのだ。


「今の『叡智の輪』に名を連ねる貴族の中で、似たような”血統技能”は?」

「ございません。”血統技能”は血脈で紡がれるもの、同じ技能は同じ貴族家に属するものにしか会得できません」

ならね、似て非なる技能はその限りじゃないわけだね?」

「ええ、そうなりますな」


 『そうはいってもそんな簡単には実現しませんよ』という顔だ。

 まぁ、普通はそうだよね。まさかあと数年でめちゃくちゃ有能な”特殊技能”を持つ少年少女が現れるなんて誰も予想できないよね。


 

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