女魔術学院で用務員をやってる俺、気付けば救世主になってました
小路 燦
一章 とある魔術学院が女だらけになったワケ
一話 用務員の仕事は学院を守ることです
学院の備品の整理、校舎の点検、中庭の花壇の手入れなど。
魔術学院に勤務しながらも教師ではない、自分の役割はそのように多岐に渡る。
「カイトさん!! 先日はご相談に乗っていただきありがとうございました!!」
「あ、カイトだ!! この前は探し物見つけてくれてありがとー!!」
「カイト君。君のお陰で講義が円滑に進んだよ、礼を言う」
「いえいえ。どれも用務員の仕事ですから」
生徒は勿論、教師の方々からも前を通りがかるたびにお礼を言われる。
学院内での困りごとや悩み。これらもまた、学院の用務員である俺の仕事。
忙しいことには違いないが、それでも毎日が凄く充実していた。
「さて、と。手が空いてるうちにやれることを――」
「――カイト様ーッ!! ここで待っていれば来ると思っていました!!」
「うわっ、アイリス!? 急に現れるのは流石に心臓に悪い……」
明日使う予定の書類の整理でもしようと宿直室の扉を開いた時のこと。
この学院の理事長の姪である高等部一年生、アイリス=リグライトが何故かそこにいた。
「というか様付けは止めてって。歳も一つしか変わらないし、立場も君の方が上だよ」
「立場や歳の差など些末なものです。この気持ちはカイト様にも止められません!!」
「なるほど。……つまり?」
「要するに私がそうしたいからそうしている……それ以上は必要ないでしょう?」
そう言われてしまうと口を噤まざるを得なくなってしまう。
あくまで用務員でしかない俺と学院で一番偉い存在の親族では差があり過ぎる。
だが彼女は出会った当初からこうだった。それに慣れてきている自分も正直いる。
「はぁっ……はぁっ……!! カイト様の私物……!! ぐへへ……持って帰ろ」
「こればっかりは慣れてはいけない!! 正気に戻れ、アイリス!!」
「? 全くもって正気ですが?」
「よっぽど問題だよその方が」
これは理事長に報告すべきか。確かに見慣れた光景であるのは間違いないが。
とにかくこれ以上宿直室を荒らされては困るので一度彼女を外に出す。
「そういえばどうして俺のところに?」
「理由が無ければ……会いに来てはダメですか?」
「それは勿論構わないけどさ。なんとなく、それだけじゃない気がして」
俺のシャツの裾を掴みながら頬を赤らめて上目遣いだったアイリスは頬を膨らます。
アイリスは俺と絡むことが非常に多い。それというのも彼女の能力が一つの起因。
「ご明察です……。地下で何か良くないことが起きる予感がします」
「!! 地下で今行われてるのは召喚魔術の講義か。行こう!!」
「はいっ!!」
何が行われているのかの結論を出し、すぐに転移魔術を起動させて地下に向かう。
アイリスには予知の能力が備わっている。特に凶兆を知らせてくれるもの。
俺達が地下に着くのとほぼ同時に、魔界の魔獣が偶発的に召喚されていた。
「――全員俺の後ろに退避!!」
「こっちですよー。あ、私の前には出ないでくださいね、見辛いので」
蜘蛛の子を散らすように生徒達は一斉にこちらに向かって逃げ出してくる。
全員が逃げたのを確認してから、すぐさま俺に飛びかかってきた魔獣を見据えた。
「……大人しくするなら、これ以上のことはしない」
爪の振り下ろしを避けてから魔術で魔獣を拘束する。ついでに魔獣の顎を撫でながら。
そして実力差を理解させられた魔獣は不意に大人しくなり、その場に伏せる。
「悪いな、勝手に呼び出してしまったのに。ほら、魔界に帰りな」
そのまま魔界へと続くゲートを創り出し、拘束を解いてから魔獣を放り込んだ。
危機から一転して静寂。そして数秒後に生徒達からの歓声が聞こえてきた。
「……ッ!! 流石です、カイト様……!! 徒に傷付けることなく、円満に解決……!!」
「学院を守るのが用務員の仕事、だからね」
ここレイアース魔術学院の用務員。突発的な事故や事件の対応もその仕事のうち。
生徒や教師が安全にこの学院で過ごせること、それこそが俺の存在意義だった。
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