第15話


「街だ!」


 俺は街に入れた。それもこれもカカロッティ商会の長であるホブスさんのおかげだ。


「ありがとうございました」


 俺はお礼を言って冒険者ギルドへ向かおうとする。するとホブスさん。


「まぁ待ちなさい」


 そう言って、財布からお金を取り出した


「冒険者証の再発行にはお金が要る。これを持っていきなさい」


 俺は礼を言う。


「ありがとうございます。この御恩は決して忘れません」


 するとホブスさんは困った顔をした。


「いや。それは儂の言葉じゃ。あの時に儂らは全滅していてもおかしくなかった。それを希少な奇跡の薬で癒やしくれたのじゃ。この程度では到底、恩は返しきれない。冒険者ギルドへ行ったら、また儂の店に来なさい。住む場所や装備品を用意しよう。そうじゃ馬車も失ったんじゃったな。補償金も儂が払おう」


 俺は感激で震える。


「な、何から何まで……すみません」


 頭を下げる。自然。涙が溢れ、こぼれ落ちていく。


「ふぁっふぁ。なぁに。気にしなさんな。それもこれもお主自身の善行の結果じゃ」


 そう言って一人の冒険者を呼んだ。別れ際に子供と手を振っていた黒髪のショートヘアの女性だ。


「レナ。済まんが、こちらのレノル殿に付いて行って手伝いを頼むよ」

「はい。ホブス様」


 こうして俺は彼女に案内されて冒険者ギルドへと向かうのだった。



「冒険者ギルドはどこも一緒なんだな」


 建物から出て感想を述べる。するとレナがクスッと笑った。


「はい。冒険者がどこの街でも戸惑わないようにってことらしいですよ」

「へぇ。そうなんだ?」

「はい。作りを統一すれば困ることもなくなりますからね」

「へぇ。あぁそうだ。敬語は使わなくていいよ。俺。歳は上だけど冒険者としては新人だしさ」

「……そう? じゃあ。普通に話すね」

「うん」

「それにしてもレノルさんって27歳なのね。驚いた。どうして、その歳で冒険者を?」


 おっと、いきなりだな。少し話すかどうか迷う。が、別にいいだろう。話すことにした。


「俺さ。つい最近まで錬金術師だったんだ」


 するとレナは驚いた顔をした。


「錬金術師様!」


 俺は苦笑い。


「様は要らないよ」

「でも! 錬金術師様って色んな装備品の素材とかを作ってるんでしょ?」

「そうだね」

「凄い!」

「あはは。ありがとう」

「でも、そんな凄い職業からどうして……」

「うん。実は一緒にやっていた親友に研究結果を全部盗まれちゃってさ」

「それって……あの、奇跡の薬……?」


 俺は頷く。


「あぁ」


 するとレナ。


「酷い! なんで! 一緒に研究していた親友から盗み取るなんて!」

「うん。なんでだろうね。でも……その際に妻も盗られてさ」

「え……」


 俺は何があったのかを詳細にレナに話した。なんでだろうね。こんなの重い話。初対面に近い相手に全部話してる。誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。慰めてほしかったのかもしれない。そんな俺の告白を受けて彼女が言った。


「もしかして、この街に来たのって……天空の塔?」

「うん。そこで願い事をね」

「何を願うの?」

「過去に戻って、全てをやり直そうかと」

「過去? そんなことって出来るの?」

「さぁ? でも何でも願いが叶うんだろ?」

「うん。そういう噂だね」

「叶わないかな?」

「どうだろう?」


 やってみないと分からないということか。


「挑戦して駄目なら……諦めるさ」


 そう言って笑う。乾いた笑いしか出てこない。


 するとレナが「叶うよ」と言った。俺は彼女へ視線を向ける。すると彼女が微笑みながら言った。


「きっと天空の塔の守護者が叶えてくれるよ」


 俺は、そう言って真っ直ぐに見つめてくるレナにお礼を言った。


「ありがとう」

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