第2話

 ガランとした室内。俺はオーランドが担当してる培養室にも顔を出した。しかしそこも空っぽ。


「おい。オーランド! オーランド。居ないのか! フザケてないで出てこいよ。からかっているだろ。なぁ!」


 親友を呼びながら各部屋を見て回る。しかしやはり何処にも彼の姿も研究の成果も資料もない。


「どうなってんだ!」


 何で何も無い!


 何で誰も居ない!


 不安が少しずつ、心を侵食し始める。


 オーランドが研究を持ち逃げした、と。


「そんなバカな! あり得ない。あり得ないだろ。俺たちは親友で、これまでもずっと一緒にやってきたのに! あり得ない!」


 自分の考えを必死で否定する。しかし何処にもオーランドの手がかりがない。だんだんと否定は確信へと変わっていく。


「嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!」


 あり得ない!


 机の天板を思いっきり叩いた。


「くそっ!」


 悲鳴を上げた俺はオーランドの行きそうな場所にも顔を出して回った。街なかを走り回る。しかし何処にも姿が見当たらない。


 俺は、街の何処ともしれない場所で膝から崩れ落ちる。


「嘘だ。こんなのってないよ。オーランド!」


 悲鳴が真昼の太陽が登る空に吸い込まれていく。


「うぅ……」


 ポロポロと涙がこぼれていく。悔しい。こんな、こんなぁ!


「うわぁあああ!」


 人目をはばかることもなく俺は泣いた。


 そして気がつけば自宅に帰っていた。無性に妻のエイミーの顔を見たくなったのだ。彼女に慰めて欲しかった。でも……


 家に帰宅した俺が見たもの。それは……


「あれ? エイミー?」


 朝は家に居たのに……


 そしてキッチンをリビングを。寝室を見て回った。でも何処にも彼女の姿はない。不安が湧き上がってくる。


「嘘だ。買い物に行っているんだよ。きっと」


 しばらく待っていれば帰ってくる。


 俺は誰も居ないリビングで独り待った。日が暮れて真っ暗になっても帰ってくる気配がない。気がつけば泣いていた。そして朝になった。


 しかし妻は帰ってこない。


 俺は確かに悲鳴を上げたと思う。でも果たしてそれはちゃんと声になっていたのか。いや。そんな事はどうでもいい。


「エイミー! エイミー!」


 何処だ。何処に行った!


「帰ってきてくれ。嫌だ。独りにしないでくれ。帰ってきてくれ! 言う事を聞くから! 生活態度も改めるから! だから!」


 俺は再度。愛しい幼馴染の妻の名を呼んだ。


「エイミぃいいいいい!!!!!!」


 俺は悲鳴を上げたまま家を飛び出したのだった。

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