賞金稼ぎ「ラック・ラック」

あぷちろ

楽に稼ぎたい男たち

「――七発目の弾丸には悪魔が住む。」

 建付けの悪いスウィング=ドアが軋む音を受けて、酒場の男たちが入口に目を遣る。

 店に来たのがいつものメンツ常連の一人だと判ると男たちは興味を失いカードゲームポーカーや雑談に勤しむ。

「それで? どんな悪魔が住むっていうんだ、女房の悪魔か?」

 丸いテーブルを囲む男が四人。その誰もが腰にホルスターを提げている。そのうちの一人、ジョージアンが冗談めかして言うと同調して他の三人が下品な笑い声をあげる。ひとしきり笑い尽くすと、会話の起点であった男……ソーシラスが真面目腐った表情で続けた。

「かの誉れ高き賞金稼ぎ、”スリンガー”マクスウェルの死因を知っているか?」

「十年前に監獄前で死んだ、あの?」

 丸眼鏡にテンガロンハットの青年、コンラッドがすこしイギリス訛りの混じる英語で聞き返した。

「味方の保安官が撃った、七連装リボルバー、最後一発の誤射だ」

「ありゃあ、単なるビビりの若い保安官が早漏をカマしただけだろうよ」

 最後の一人、筋骨隆々のエルクが大げさに肩をすくめた。

「首吊り殺人鬼、”絞首”トライブは逃避行の最後、因縁ある賞金稼ぎに決闘で負けた。その時の二人の手元にあったリボルバーは双方撃ち尽くしたあとだった」

「両方が撃ち尽くすまで決闘が続くなんてザラだろう?」

 このメンツの中で最も射撃の腕が立つジョージアンは鼻で笑った。

「ケンウッド”大佐”は戦場で7発目の弾丸をライフルから撃とうとした瞬間、銃が暴発してその右手をかぎ爪に変えたといわれている」

「ケンウッドの爺さんのあれは15の頃に狩猟で狼に噛みきられたって言ってたぞ」

「俺は昔の女に高い指輪ごと盗まれたって聞いたぞ」

 ソーシラスの言にすぐさま異論をはさむコンラッドとエルク。ソーシラスはわざとらしく咳払いをすると強引に話を締めくくった。

「……ともかく、7発目の弾丸にはいろんなジンクスがあるってこった」

「オチ弱くねえか?」

「おめえの話は長いだけでそんなにおもんねえんだよなあ」

「やっぱり、女房の悪魔に憑りつかれているんじゃ」

 三者三様にダメ出しをされ、ソーシラスはがっくりとうなだれた。

「ったく。テメェらが暇だからって無茶ぶりするからだろうが」

「情報屋のジョンが時間の情報まで渡さなかったのが悪い」

「そうだ、ジョンが悪りぃ。”不幸”アンラクの出没場所って言われてこの酒場に来たが、こりゃあ、意図的に流された情報だろ絶対」

 エルクがこの場には居ない、贔屓にしている情報屋の名を出し、コンラッドがそれに同調する。少しばかり近くのテーブルがさわめき立った気がした。

「つってもよお、アンラクヤツの懸賞金は3万Lドルだろ? 俺らの借金が優に返せる額なんだよなあ……」

「俺ら、じゃなくてお前のな」

「ジョージアン。契約書には連帯保証人としてお前の名前を書いてるから安心しろ」

「このっクソ野郎!」

 ジョージアンは汚い言葉でソーシラスを罵った。

 

 ――不意に、酒場の中が静まり返る。


 先ほどまで騒がしかった店内は静寂に染まり、代わりに濃密な殺気が場を満たしている。

 この場にいる誰もが、争いの気配を感じ取ったのだ。

 ジョージアンは椅子に座りこんだ態勢のまま、静かにホルスターに刺さるリボルバーの弾倉を確認する。

 7発。この日のために新調したリボルバーは、7発装填式の最新モデルの物だ。ジョージアンは小さく舌打ちをした。

 

 ――キィ、とスウィング=ドアが鳴る。


 姿を現したのは、血色の悪い中年。テンガロンハットを目深に被り、七つの指輪をネックレスにして首から提げている。

 体中に佩いている拳銃の数は七。どれもが旧式だ。

 ヤツが来た。ソーシラスを含め、男たちは顔を見合わせた。

 不健康そうな男、賞金首・”不幸”アンラクは幽遊とバーカウンターに近づき、空いた席へと座った。

「ミルクを頼む」

 その言葉がきっかけとなったのか、酒場中の男どもが銃を抜いたのだ。

 ”不幸”アンラクは、彼らの不安を見透かしたように鼻で笑った。少なくとも、最初にトリガーを引いたジョージアンにはそう見えていたのだ。




 終わり

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賞金稼ぎ「ラック・ラック」 あぷちろ @aputiro

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