歩いてたら伝説の剣を拾ったので勇者になったけど、面倒だからやりたくない
マーブル
第1話 なんだこれ?剣みたいだけど
よく晴れた午後、ウインドランドの街は買い物客や旅人で賑わっている。街のほぼ中央にある宿屋兼食堂の「ナイス亭」も満員の客でごった返している。
「ビールはまだか?」
「肉の丸焼き、早くしてよ!」
客たちは店員に次々と注文や催促をしている。
「待ってな、今持ってくからよ」
店主のリチャードは調理場から笑顔で返事をする。昼に忙しいのはいつものことだ。客の不平にも慣れている。そう言う間に大きな肉の丸焼きを大皿に載せた。
「リナ、気を付けて持ってけよ」
「まかしといてよ!」
リチャードはウエイトレスをしている娘のリナに大皿を手渡し、次の調理に取り掛かる。リナは慎重に両手で大皿を運び、待ちくたびれた客のテーブルに置いた。
「おまたせ!当店自慢の肉の丸焼きでーす」
客たちは待ってましたと言わんばかりに、肉にかぶりつく。このナイス亭は料理に定評があり、常連客はもとより観光客にも人気がある。
朝から夜まで目の回るような忙しさだが、店員はみんな慣れっこだ。調理は店主のリチャードが担当し、おかみさんのジーナは調理の補助と会計、娘のリナと息子のエドはウエイターをしている。それと、もうひとり・・・
「まったく、この忙しいのにあの子ときたら!」
そう、ナイス亭にはもうひとり、息子がいる。その息子は何をしているかというと・・・
「どこかに隠れる場所はないかな?」
少年は森の中を、隠れ場所を探して走り回っていた。近所の子どもたちと、かくれんぼをして楽しんでいる彼こそナイス亭の長男、アズナだ。
「でもいいのか、店は忙しいんだろ?」
友達のトムが心配そうに聞く。アズナは平然として
「ん?いいんじゃない」
まったく気にする様子もなく答える。アズナは小さい頃から店の手伝いをせず、遊び回っていた。
父親のリチャードはアズナが15歳になる来年からは、本格的な修業をさせようと思っていたので、特にとがめることもしなかった。しかし、店の手伝いくらいはしてほしいと思っている。
当のアズナはそんなことはお構いなく、毎日をエンジョイしていた。決して悪いことはせず、穏やかでのんびり屋の気の良い少年だが、責任感が無いのが玉にキズだ。
「俺、あっちに行ってみるよ」
アズナは森の奥深くまで行った。この辺は昼でも薄暗くて、来たことがなかった。
背丈と同じくらいの草をかき分けて進んで行くと、木々の木洩れ日に光っているものが見えた。近づくと、地面に何かが刺さっている。
「何だこれ?剣みたいだけど」
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