第五話 筋肉
早朝に、俺はひろしと共に組織の本部ビルへと戻ってきた。
ここの七階が俺の職場。部屋の中に入ると、ボスと二号しかいなかった。
「二号」というのはコードネームのようなもので、この部屋の中では副将クラスといったところの意味だ。要はボスの次。この二人は管理職で現場には出ない。
あまり詳しい事は明かせないが、ボスは六十前の既婚男性、二号は二十台半ばの女性だ。彼女は俺たち現場要員が使う武器の手配とボスの世話を担当している。
現場要員は七名。全員が番号で呼ばれていて、実力に応じて数字が大きくなる。あとは、お互いの事をよく知らないのだが、それが組織の方針だし、その方が安全上も都合がいい。特にこういう事態の時は。
俺は二号の机に向かい、そっぽを向いて例の物を返した。二号は恥ずかしそうにそれを素早く受け取った。この緊急事態で昨夜から泊まり込んでいたはずだから、二号のスカートの中は、ずっとノーパンだったのだろう。
二号が席を立ち、いそいそとトイレか更衣室へ向かうと、ひろしが走ってきて二号の椅子の臭いを熱心に嗅いでいた。
ブランデーグラスを握ったまま窓辺に立ち、ブラインドの隙間から朝日を覗いていたボスが俺に尋ねた。
「仕事は終わったのか」
「当然だ。俺を誰だと思っている。それより、状況は」
「おまえが生きて帰ってきたということは、七名全員が無事だ。今のところは」
「裏切り者も、だな」
「そういうことだ。そこで、おまえに新たな指令だ。今日中に裏切り者をあぶり出し、然るべく処理しろ」
「了解した」
俺はひろしを連れてトレーニングフロアに向かった。同僚たちはマシンで朝の筋トレに励んでいる時間だ。
俺はマシンを使う筋トレはしない。
仕事をするうえで筋肉は重要だが、安定状態で負荷を掛けて肥大した筋肉は、体を重くして俊敏さを奪うだけでなく、他の筋肉作用を抑制して動きの邪魔になる。
殺し屋も同じだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます