当たってはいけない。
嶋田ちか
負けるが勝ち
『負けるが勝ち』
世の中にはそういう言葉がある。
だが、俺たちパチスロの世界では負けは負けだ。
負けが勝ちに優ることはないと、俺も信じていたんだ、あの時までは。
田舎県の、もっともっと田舎の地域。
周りに田んぼしかないようなさびれたところ。
そこに、大勝ちできるパチスロがあると聞き、はるばるやって来た。
外観はほんとにただのパチスロ。写真を数枚撮影してから店内に入る。
驚くべきは人の数だった。
平日の昼間にも関わらず、店には大勢の客がいた。
ちらり、と窓の外を見ると駐車場には黒くて大きめの車がたくさん。
日本中から大勝ちを夢見て人が集まっているのだろう。
「さて、どこに座ろうか」
とりあえず他の客の様子を見つつ店内をうろついてみると、賑やかな台が目に付いた。
ドル箱が何個も積み重なり、今も当たりを出し続けているらしかった。
「お兄さん、ツイてるねえ」
そう声をかけると
「過去一だよ!やっぱりここはすげぇや」
画面には7が3つ。
音楽は大音量で鳴り響き、周りの客の羨ましそうな視線が集まっている。
大勝ちできる店、というのは間違いではないようだった。
そこで、俺も勝ちを掴み取ろう、と意気込んで遊戯を始めたものの一向に当たらない。
動画を撮ったり、メモしながら遊んでいるとあっという間に外は暗くなっていた。
ふと、先ほどの男性の席を見ると、もう既に帰宅したらしい。
その日は俺も負けが続いていたので帰宅することにしたんだ。
数日後、再びあのパチスロ店に訪問すると、なんと閉店していた。
「あんちゃーん!そこになんか用あんのかー」
軽トラに乗ったおじさんが話しかけてきてくれた。
「いや、前までここにあったパチスロに来たくて。閉店しちゃったんですね。」
「あーあれはおっかなかったな。」
「おっかない?何がです?」
「ここの店長がおっかないのと繋がっててさ。わざと数席当たる席を用意しておいて、その当たったやつが帰る時に攫われるらしいって話だ。」
開いた口が塞がらない。
「それじゃあ、もしここで勝ってたら」
「そうそう。買ったお金は店出た途端に奪われて、そのままどっかの国に売られるか、臓器取り出されるかしてたらしいよ」
あんちゃんは負けてよかったな、肩をポンポンと叩きおじさんは軽トラで走り去った。
あのお兄さんが無事であることを祈りたい。
当たってはいけない。 嶋田ちか @shimaenagon
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