七国戦記~異世界転生で天下無双を目指す~

@waita

プロローグ

 暁京(あかつき きょう)は変わり者であった。

 彼は現代に生まれながら、世界最強を目指していたのだ。

 それ自体は子供の戯言とも言えるだろう。

 事実、彼の父親は、「子供って言うのはそういうもんだ」と思い、京の事を放っておいたのだから。

 だが、京は本気で世界最強を目指していた。

 それも、スポーツでとか、一番力が強いとかではない。一番戦いの強い、世界最強を目指していたのだ。

 と言っても、彼の父親の言う通り、子供であれば普通の事である。

 しかし、京は高校生になってもそれを諦めなかった。

 だから変わり者なのである。


 その日も、京は人目のつかない裏山で、一人鍛錬を積んでいた。

 

「ふっ!ふっ!」


 鍛錬の内容は様々だ。

 木刀を使って見えない敵と戦ったり、素手で木を殴ったり、ただひたすら山を駆けたり、斧で木を切り倒したり、その木で槍などの武器を作って、やはりそれらを振ってみたり。

 はっきり言って、高校生が学校帰りにする行動としては異常だろう。

 それでも、京は鍛錬をずっと続けるのだ。

 世界最強を目指しているのだから。


 京自身も、この鍛錬が異様なのはわかっている。

 だからこそ、人目のつかない、裏山で鍛錬をしているのだ。

 そして京自身も、この鍛錬が無駄な事はわかっている。

 現代の日本に置いて、この鍛錬を発揮するところなんてスポーツくらいしかないのだから。


 昔、剣道をやったこともあったがすぐにやめたし、空手や柔道も初めてすぐにやめた。

 京からしてみれば、ルールの中でしか戦えないのは窮屈だったのである。


 そうなると、この鍛錬を活かす場所はないということになる。

 まったくの無駄な行為なのである。

 それがわかっていても、京は鍛錬をやめなかった。

 物心が着いた時から、ずっと続けているというのもある。

 おかげで、体はとてつもなく筋肉質に仕上がっている。

 背は、悲しい事にそれほど伸びなかったっため160cmしかない。だが、まだ高校1年生であるからまだ伸びる可能性はある。


「はぁ、はぁ」


 しばらく鍛錬を続けてから、京はスマホを手に取る。

 電波は入っていないが、時計は動いている。

 時間を確認すると、もう18時であった。


「帰るか……」


 いつまでも鍛錬を続けたいのだが、翌日には学校があるのだし、余り遅くなると両親が心配する。

 正直に言うと、京は頭が悪い。

 それとは別に、学校に行く時間も鍛錬に当てたいほどである。

 しかし、両親には育ててもらった恩があるし、その恩に報いる気はあった。

 だから言われた通りに、学校にはきっちり行くし、心配しない様に家にだって帰るのだ。

 

 学校から直行したため、鞄を手に取り、京は走って下山する。

 走りながら京は、都合のいい裏山があるような田舎で良かったとつくづく思う。

 まあ田舎と言っても、下山すれば普通の街並みが広がっており、例えばファストフード店や、カラオケ屋が並んでいたりするし、それなりに高いビルだって並んでいるのだ。

 車だってそれなりに走っている。

 

 下山し終えた京は、交差点で信号を待つ。

 その姿は、普通の高校生そのものである。

 彼が鍛錬をやめることはないが、いつかは普通の大学生になり、普通の社会人になるのだ。それは、この平和な日本に生まれた以上、仕方がない事なのである。

 しかし、それはあくまで、このまま生きていけばの話である。


 信号が変わり、京は歩き出した。

 その時、大きなクラクションを鳴らしながら、トラックが彼の元へと突っ込んできたのだ。

 どれだけ体を鍛えようとも、車に轢かれたら人間は死ぬ。

 だが、京は焦らなかった。

 眼前に迫るトラックではあったが、避けられると思ったからである。

 事実、京は横に飛び込み、暴走してくるトラックを躱したのである。

 

「あ……」


 しかし、ギリギリで横に飛び込み、体勢を崩したその状態で、迫りくる二つ目の脅威を避けることは出来なかった。

 対向車が暴走するトラックに焦り、操作を誤ってしまったのである。

 その車に、京はなすすべもなく頭を轢かれてしまう。

 言うまでもなく即死であった。

 


     ♦



 次に京が目を覚ましたのは、よくわからない空間であった。

 真っ白な何もない空間に、美しい女が一人、浮いているだけである。

 そもそも死んだはずなのに、目を覚ましたというのがおかしな話だ。


(ここは天国か?)


 つまるところそう言う事だと、京は考えるしかなかった。


「目を覚ましましたか?」


 美しい女性が、やはり美しい声で、京に話しかけてくる。

 だが、京はあまり女性には興味がない。

 京自身は、わりと整った顔であり、さらに筋肉質な体である。だからこそ、最初クラスの女子にもてはやされたが、その武骨な態度に寄って来たものは離れていった。


「ここはどこだ?」

「ここは天国です。残念ながらあなたは死にました」


 やはり、という感じである。死に際の記憶も、痛みも、京ははっきり覚えていたのだから。

 だからこそ、悔しさが心の底か湧き上がって来る。

 何も為せずに死んだ事が、京にはなによりも悔しいのだ。


「くそっ!」


 京は手を振り上げ、何もない空間へと振り下ろす。その拳は手ごたえもなく空ぶった。悔しがることさえさせてもらえなかった。


「そう嘆かなくても大丈夫ですよ」


 女性のその言葉に、京はハッと顔を上げる。

 

「私は神の一人。あなたのように強い魂を持つ者を、別の世界に転生させるためにいるのです」

「なに?」


 京とて現代に生きる者。聞いたことはある。異世界転生というやつだ。

 だが、クラスの者が話しているのを聞いたことがあるだけであり、よくは知らない――が。


「おい!おい!それはどういうことだ!」


 なんとなく、この先の展開が読めて来たため、京は神を名乗る女へと掴みかかろうとした。だが、いくらあがこうと、二人の距離が詰まる様子はない。


「落ち着いてください。望みは叶えましょう」

「なら、戦える場所にしろ。それだけでいい」

「そうですか。魔法とか、魔物がいる世界を求められる方が多いのですが、それでよいのですね?」


 そう言われて、京は考える。


「いや、そういうのはいい」


 はっきりと言えば、京は頭が悪い。魔物はともかく、魔法等の小難しい事は必要としない。


「わかりました。あなたは強くありたいと望みですよね?それならば強い肉体で転生することで良いでしょうか?そういう方は多いので……」

「それもいらない。今の肉体でいい」


 戦える者がいない。そんな世界はつまらない。

 京は、自分で最強を切り開きたいのだ。


「あっ!言葉だけは通じるようにしてくれ」


 やはり、京はそういうことだけは苦手だ。むしろこの考えに至ったこと自体が、京の頭からすれば奇跡的な事であろう。


「はぁ……わかりました。あなたに相応しい世界で、新しい生を与えましょう」


 あまりの京の態度に、悠然とした態度の女神も、呆れたような声を出す。

 京は、変わり者なのである。


 そして、京の意識は遠のいていった。

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