第十三章 可愛いアノコ

第123話

「ヴィルジニアは可愛い。はい繰り返して」


「……シアニル兄様、あの……」


「ほら」


「……わたしは、かわいい……」


 ただいまシアニル兄様に絶賛洗脳されそうです。はい。


 パル兄様とカルカラ兄様と一緒にお忍びで城下町を楽しんだあと、兄様たちから『まあどうせバレてるんだけど』としれっとカミングアウトされて『じゃああのこっそり出て行く感はなんだったんだ……!』となったわけなんだけど。


 まあ様式美って言うか、一応やっぱり堂々とするのは止められちゃうらしくてね?

 当然っちゃ当然なんだけど。


 というか騎士たちの一部は気付いていないみたいだけど、選り抜きの護衛騎士たちが護衛対象を見逃す方が問題だって話ではあるので言われてみればああなるほどって感じなんだけどさあ……。


 で、今シアニル兄様に何故にこんなことを復唱させられているかというと。

 要はルールを守りまくりのイイコ代表みたいな私(ヴェル兄様談)がパル兄様たちが一緒とはいえ息抜きをしたくなるほど何か思い悩んでいた……から始まって『皇女だから求婚されている』イコール『自分が可愛いと自覚していない』というよくわからない図式が兄たちの中で成立したらしいのだ。


 うん? 私は私が可愛いことを知っているよ!?

 派手な特徴がないだけで美少女だって自覚はあるよ!?


 ……なんてさすがに言えるはずもなく代わる代わる兄様たちから『可愛い』って言われたのに対して乾いた笑いしか出なかったんだけどさ……。


 ちなみにカルカラ兄様とパル兄様は私の状況を理解しているので、他の兄様たちの暴走を見て笑いを堪えていた。

 私が遠くを見て過ごしているのをものすごい肩を震わせながら「がんばれ」って口パクで言ってきたのはとてもじゃないが後で覚えてろ。


「あのね、兄様。私は別に自分のこと可愛くないとは思ってないのよ……?」


「そうなの?」


「そうだよ。父様や兄様たちだけなら身内の欲目かなって思うけど……そりゃね、グノーシスとかは立場とかもあるから身分も上の私におべっかを使うかもって思うかもしれない。だけどカトリーナさまやテトみたいに嘘つけないタイプの人も私のことを『可愛い』って言ってくれるってことはそれなりだと思うよ! それに自意識過剰にはならないけども!!」


「身内の欲目とか自意識過剰とか難しいことを知っているヴィルジニア賢くて可愛い」


「兄様聞いて」


 シアニル兄様って本当にマイペースだよね!


 いやもう可愛い妹のために何かしてあげようっていう兄様たちのお気持ちは大変ありがたいんですよ、ええ、ヴィルジニアとっても嬉しいなー!!


(けどそういうことじゃないんだよなあ)


 確かに私は前世の記憶がある分だけ自己肯定感が低い部分がある。

 それは否定しない。

 ただ割とその辺を補ってあまりあるポジティブ精神もあると思うんだよ。……あるよな?


(いやうーん、ちょっと前まで婚約者候補たちに対して何にもない私だと申し訳ないとか釣り合わないとか皇女じゃなかったら価値が……なんて思ってた部分も否めないからなあ)


 可愛いだけじゃ世の中だめなんだよって思ったんだよね。

 あっ、自分で可愛いってわかってるわ十分ポジティブだわ。


「やっぱり婚約者候補なんて三人もいらなかったんだよねー。一人ずつにすれば良かったのに」


「え?」


「んーん、なんでもない。まあ挽回のチャンスくらいはあげるけど……可愛い女の子を悩ませるなんてだめだよねえ」


「……兄様?」


 なんだろう、耳を塞がれたから何を言っているのか聞き取りづらいけどきっとろくなこと言ってない。

 シアニル兄様って割とマイペースに過激な発言しているから気をつけないといけないんだけど……。


(後でカルカラ兄様に相談しておこうかな……)


 カルカラ兄様はカルカラ兄様でちょっと脳筋なところがあるけど、まだ常識人だからな……。

 言わずもがな我が兄たちの中での常識人代表はアル兄様で、次いでパル兄様なんだけど……アル兄様は今お仕事が忙しいんだよね。


 パル兄様は悪乗りし始めるところがあるからそういう意味ではちょっとシアニル兄様に乗っかって何かやらかしそうな気がしてならない。


「あの四人は悪くないからね?」


 とりあえず、私はそれだけはきちんと言っておくのだった。

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