第117話
「ってことで恋愛ってなんなのか教えて兄様」
「お互いに恋をして愛情を感じること。以上」
「辞書レベルの回答!!」
パル兄様が久しぶりにお茶でもしようって来てくれたから真面目に相談したのに!
思わずむくれる私に、兄様はおかしそうに笑う。
ガシガシ撫でられるのはちょっと痛いけど、いやじゃない。
「もうー兄様は乱暴だなあ」
「お前は全っ然デカくならねえなあ。ちゃんと食ってんのか?」
「ちびじゃないし!」
「そうだなあ、いっちょ前に恋愛がどうのこうの言うくらいマセちゃいるかあ」
喉を鳴らして笑う兄様は意地悪な表情だけれど、優しい目をして私を見ている。
しれっとそこにいるカルカラ兄様も優しい顔して私たちのやりとりを見ていた。
(そうなんだよなあ)
前世の記憶があるので中身的にはほらね? 高校卒業くらいのメンタルなつもりだけどね?
兄様たちからすればまだ十歳の妹だから、私の質問に対しても深くは考えず『れんあいってなあに?』っていう子供のなぜなになぁに位にしか思っちゃいないんだろうなあ。
でもそうじゃないんだよ!
「まあもっと具体的に言ってみろよ、そうじゃなきゃ俺らもわかんねえって」
「そもそも俺たちも政略結婚が前提だから、婚約者と恋愛しているのかと問われると難しいぞ?」
「うう……」
カルカラ兄様のどストレートな正論が私に大ダメージだね!
でもまあ、確かにそうなのだ。
パル兄様が言うように具体的になんでそんなことを思ったのか言わなければ、兄様たちだって辞書か辞典にあるような、あるいは道徳的な内容しか答えられないってことくらい私も理解はしているのだ。
「……あのね、私は恋愛がしたいなってずっと思ってて」
「うん」
「出会って好き同士になって、いい感じでこう……なんてさすがに物語並のことは考えていなかったんだけどね?」
「うん」
なんかこっぱずかしいな!!
でも兄様たちは真面目な顔で聞いてくれているので、私もきちんと話そうと思う。
確かに物語並みの恋には憧れるけど、私は〝裏切られない愛情〟がほしいと、ずっとそう思っている。
前世で両親がどんな出会いをして、どんな感情をお互いに持っていたかは知らない。
もしかしたら素敵な恋をした結果がああで、子供たちのことは二の次で自分たちだけの世界を作っていた人たちなのかもしれない。
でもそれは無責任だと思うし、それならそれで私は彼らのおもちゃだったのかと思うと悔しい。
苦労させられて、恋する余裕もなかった前世の私はなんだったんだろうって思うのだ。
それでも私は、恋がしてみたいと思った。
憧れだったんだと思う。
大事にされるその気持ちを、特別な人になるっていうことに対しての憧れがあったから。
「……皇女だし、婚約者が決められるって思ってて。それでね? 相手の人といい関係を築いていけたらいいなって思ってたの」
「うん」
「でも、三人いてびっくりして。今度はユベールも加わって、四人でしょ?」
「そうだなあ」
パル兄様も茶化すことなく、私の気持ちをゆっくりと聞いてくれる。
カルカラ兄様はお茶を入れ直してくれた。
「四人と関係を築いて、誰かを選ばなくちゃいけないのが、怖い……」
ぽつりとこぼしたのは、私の本音だった。
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