第116話

「ニアは可愛くなったよ」


「……ユベールは前より意地悪」


「そうかな、照れくさいんだ」


 にっこり笑ってそんなこと言われても信用できないからね!?


 なんていうかこんなグイグイくる十五才とか、私知らないからさあ!

 前世の中学時代とかもう朧気でしかないけど、あれ? 確かに早い子は彼氏がいたから恋愛としてはおかしくないのか……?


 十五才と十才の年の差五歳って、二十歳くらいになったら良い感じ……?


 いや落ち着け私ィ!


「ま、まだ私十歳だし」


「そうだな、だから陛下も急いではいないんだろう」


「……そうなのかな」


 ドキドキはする。

 でも他の候補者三人とは違う、ユベールに対するこの安心感はなんだろう。


 幼い頃を知っているから?

 一緒に泣いて笑った時があったから?


 候補者っていう、肩書きなしの頃に出会っていたから?


(わからない、だけどいやじゃない)


 じゃあユベールをお婿さんに決めてしまえば良いんだろうか。

 他の三人が必要としている〝皇女の夫〟という立場、それを理解しているのに?


 誰を選べば正解で、私の幸せに繋がるのか。


(……自分で選ぶって、責任が伴うんだなあ)


 ずっと幸せになりたいと思って、いつかは素敵な人と出会って結婚したいなって思っていた。

 そのためには〝選ばれるように〟とか〝選んだことを後悔しないように〟素敵な女性になりたいなって思って、努力してきたつもりだ。


 兄様たちがすごいから、見劣りしないようにっていうのは勿論あるけど……実際のところは、未来の旦那様から飽きて捨てられないように必死なんだなって、どこかでわかっていた。


 この世界に転生して、前世とは違って家族に愛されて大切にされて、前世の分まで幸せになろうって張り切ってたけど……実際のところは、私は『捨てられるのが怖い』んだなって最近気づいてしまったのだ。


「ニア」


「……なあに?」


「お前はすぐ考え込んじゃうところ、変わってないんだな」


 ユベールが手を伸ばして私の頭をそっと撫で、パッとすぐに手を離した。

 少しだけそのほっぺたが赤くて、そういうところは変わってないんだなって思った。


「そうかな」


「どうせまた難しく考えてたんだろ。あの頃も兄さんたちのことがどうの、騎士たちに迷惑が……ってブツブツ言ってたじゃないか」


「あれは!」


 あれは、ユベールがまだ人だと知らなくて、フクロウだと思ってたから安心して独り言を呟いていただけで……いや、シエル・・・に話しかけていたから、実質ユベールからしたら一方的にとはいえ相談されていたってことになるのか?


 複雑だなあ、もう!


「……もうそんなことしてない」


「ほんとに?」


「してないの!」


 私だって成長してるんだからね!

 いやまだ十歳なので子供と言えば子供なんだけど……。


 小さい子扱いされるのは癪だけど、だからってレディー扱いをユベールにされるのはまた別っていうか……!

 乙女心は複雑なのよ!!


(はあ……そもそも〝恋愛〟ってなんなんだろ)


 私が四人の内の誰かを選んじゃったら、残り三人は傷つくの?

 そんで新しいカノジョができて、あっちの人がよかったなあって私は後悔したりするんだろうか?


(いや最低じゃん)


 前世で恋愛の一つもしておくんだったなあ……。

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