第99話

「スペルビアで騎士になれたら……フォルティス様はそれで満足なのでしょうか」


「……どうでしょう」


 私の問いかけに、フォルティス様は表情をぴくりとも変えない。

 この人、あんまり表情変わらないんだよな……決して無表情ではないし、耳が動くから反応的にはなんとなくわかるんだけど……。


「この間、私と話をした時に蹴りがどうのって仰ってたでしょう?」


「ああ、はい。自分にはない視点で、なるほどと思いました」


「……つまりですね、ええと」


 何を、言おうと思ったんだっけ。


 スペルビアで認められたいフォルティス様に対して、私は……前世の私が、家族ではない人に認められるんでもいいんだって気持ちに折り合いをつけたことを思い出して。

 スペルビアに固執しているんじゃって思ったけど……でもそれ自体、私の気持ちの押し付けのような気がしてきた。


「姫、お手を」


「え?」


 急に立ち上がったフォルティス様に、手を差し出されて思わずその手を取る。

 私をエスコートしながら歩き出したフォルティス様に呆気にとられつつそのままついていくと、離れた所に人影が見えた。


 本当に私の目で人影ってわかるくらいの距離ね!!


「カレン様がこちらをご覧です」


「そ、そうなんですか。へえー、本当に目がいいんですねえー……」


 わからん。わからんて!

 あの距離でカレン様って判別できるほど私は魔力判定能力も目も良くないのよ!


「……姫の方が、小さくて。弱くて。脆い」


「は?」


 ディスってんのか。

 思わず出てきた声は思いの外、少女としては低いものだったと自覚しているが……フォルティス様はまったくもって気にしていないようで、私の手に視線を落としている。


「あの人は戦える能力がある。なのに心がついていかない。だから王に認められず、心が折れた。そして、俺を同情するのと同時に……〝認められなかった者〟として安堵しているんです」


「……フォルティス様?」


「だから、〝認められなかった者〟が選ばれたら・・・・・あの人は救われる気持ちになるんだろうなと思います。王に言われたからというのが、大きいでしょうが……それが根底にある」


「……」


「だけど、不思議だ」


 今度は私の目を見て、フォルティス様は少しだけ首を傾げた。

 本当に不思議そうに。


「こんなにも、誰よりも守られるべき弱い存在である姫君の方が、ずっとあの人よりも強いと思う。それが不思議です」


「……それ、褒めてますか。貶してますか」


「褒めています」


 思わず突っ込んでしまったが、フォルティス様は至極真面目な表情だけにどうやら本気のようだ。


「俺は守られる側ではなく、守る側でありたい。そのためなら、自分にできるだけの戦い方をしたい。あの人にとって俺が、自分の過去を雪ぐための存在なのかもしれないとわかっていても……俺は、俺の道を行きたいと思っています」


「……それでいいじゃないでしょうか」


 人影は、動かない。

 フォルティス様は見上げていた。


(もしかしたら、この会話も……カレン様の耳は、拾っているんだろうか)


 獣人族の聴力は半端ないっていうからね!

 どのくらいの距離までオッケーなのかはわかんないけど……いくら小型とはいえ肉食獣種の、王族出身者となるとその潜在能力はかなりなはずだってアル兄様も言っていた。


 だとしたら、フォルティス様はカレン様に聞かせたかったんだろうか。


「俺はスペルビアの王に認めてもらえる戦士になります。それと同時に姫君の婚約者候補として恥ずかしくない騎士となりましょう」


「……ええと?」


「俺に戦い方の道を示し、守られるだけではない……守るに値する行動を示してくれた姫君に敬意を」


 薄く微笑んだフォルティス様はそりゃもうかっこいいんですけどね?

 なんだろう、いいように使われた感が拭えないよね!

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