第93話
(うわっ……うわ、男の子って感じがするうぅ……)
いやそれを言ったら私もまだ十歳の子供なんだが。
フォルティス様は今年十五歳、サルトス様と一個しか違わない。
でもエルフ族が全体的に線が細めの繊細な綺麗系だとすると、獣人族は成長度合いが早くて骨格がしっかりしていて筋肉質な、健康的な綺麗系が多い気がする。
だからこそ騎士や戦士といった肉弾戦を主力としているんだけどね!
だからフォルティス様もそうだ。
十五歳とは言ってももうがっしりとした体つきで、もう男の子っていうより男の人に近い雰囲気を持っている。
普通の十歳の女の子だったらイチコロだったんじゃないかしら。
初恋泥棒的な? 私は何を言っているのだろうか。
「そ、それじゃあ失礼します」
「よろしくお願いします」
頬にある傷は、鋭い刃物で切ったような痕だった。
訓練中にとのことだったから、きっと真剣を使ったせいだろう。
薬品の匂いもするし、きちんと治療はされていることに少しだけ胸をなで下ろす。
獣人族の訓練は基本的に真剣を使うって前にサールスとロッシが言ってたからね!
幼いうちは丸太を振り回すって言ってたけどどこまで本当なんだか。
「……痛むようだったら言ってくださいね」
「はい」
アル兄様から聞いた話によると、獣人族の国スペルビアは力こそが正義というところがある。
だからこそトップである王様は百獣の王、獅子の獣人。
そして誰よりも強い戦士だって話なんだけど……カレン様を含む王家の人々は肉食獣種が多く生まれやすいそうだ。
うちでいえば男児が生まれやすいのと似たようなもんだろう。
だから王家に草食獣種が生まれると、落胆されることも多いそうだ。
勿論家族関係に関してはその人たちその家族ごとによって異なるものなので、そこは一概になんとも言えないことだけれど……弱肉強食で王権争いなどになるのなら、やはり不利には違いないんだってさ。
(でも、フォルティス様は文官じゃなくて戦士の道を選んだってことだよね……)
治癒の力を使って、治れ治れと念じる。
私の目には自分の魔力が手の平に集まって、小さな光の泡となってフォルティス様の傷を包むように見えた。
(上手くいった)
相変わらず能力値的には小回復なんだけど、そう……たとえるならヒールLv.1がLv.3くらいにはなってるはずなんだよ!
私だって日々努力してんだからぁ!!
ただ、どうあがいてもハイレベルなヒールにはなりませんよってだけの話……ああ、なんて悲しいことでしょう。
「どうでしょうか!」
「……ありがとうございます」
「小さな傷でしたら、いつでも治させていただきますから」
「いえ。この程度でしたら姫の手を煩わせるわけには」
「気になさらないで。フォルティス様は私の婚約者候補ではありませんか。婚約者候補のことを心配で、私が勝手にお願いしているのですから」
「……ありがとうございます」
落ち着いていて、礼儀正しくて、決して私を子供として扱わず、姫として尊重してくれるかっこいいウサギ耳の騎士さん。
いや惚れてまうやろ! って要素もりっもりなんだけどさあ。
(……この人が一番、私と距離をとってるんだよなあ)
目下の悩みはそれだよね!
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