第十章 可愛いだけじゃないですけど?
第92話
さて、もう一人の候補者……フォルティス様が戻ったらしい。
いや帰省してたんだからこっちに戻ったって言い方は語弊があるか……? あっちが故郷なワケだし。
なんで帰省したのかはわからないけど、でっかい絆創膏を貼って戻ってきた彼を見て早速第五妃のカレン様がぶっ倒れたって話はもう城内で知らない人がいないんじゃないかってくらいの大騒ぎになった。
これまでフォルティス様が不在だったので交流する機会が他の候補者よりも少ないということが考慮されて、しばらくの間は週二回フォルティス様と一緒に過ごすよう父様からも言われてるんだけど……その騒動の翌日が久しぶりの再会って大丈夫なのか?
(まあ倒れたのはカレン様であって、フォルティス様が悪いわけじゃないし……でも居心地悪かったりしないかなあ)
できる限り静かな場所がいいかなと思って、今回は皇族しか入れない庭を指定してみたんだけど……。
それはそれで迷惑だっただろうか。うーん。
「皇女殿下、お待たせして申し訳ない」
「あっ……いえ、今日はお時間をとっていただきありがとうございます!」
約束の時間より早く来たのは私だしね!
それにしても、十五歳とは思えない貫禄があるんだよなあフォルティス様……。
黒髪に浅黒い肌、薄い水色の目。そして、ぴぃんと立ったウサギ耳のこのギャップ萌えよ……。
(ああ、あれかあ)
そして頬に貼られたでっかい絆創膏。
私の視線に気づいたフォルティス様がジッと私を見て、絆創膏に手を添えた。
「気になりますか」
「えっ……あー……その、少し」
「正直な方だ。……これは帰省中に国王陛下自ら稽古をつけてくださった際に未熟ゆえついた傷です」
「まあ。獣人の王国スペルビアの王と言えば屈強な獅子の獣人で、最強と噂の?」
「そうです。俺に取っては祖父にあたります」
祖父なのに最強ってとんでもねえおじいちゃんだな!?
会ったことがないからわからないけど、アル兄様に言わせるととっても威厳があってカレン様が怖がっているそうだ。
幸い、スペルビアの王はアル兄様みたいに先祖返りでも怖がったり嫌がる素振りはなかったそうだけど……。
(ただ、魔法使いなのが気に食わないって言われたんだっけ?)
根っからの脳筋一族だってパル兄様はそう評価してたな。
じゃあフォルティス様に帰省を促したのも、帝国で稽古を怠けていないかチェックするためのものだったりするのかしら?
「……もしよろしければ、私が治癒の魔法をかけてもいいでしょうか?」
「治癒の魔法を? 殿下が?」
「はい。といっても、あまり強いものではないので……気休め程度にしかならないんですけど」
「……しかし、殿下に醜いものを見せるのは少し躊躇われるというか」
「あ、それは大丈夫です! カルカラ兄様の訓練でお手伝いをさせていただくこともあるので!!」
そのおかげで割と剣による切り傷や、その他打撲、擦り傷なんて見慣れてるからバッチこいだぜ!!
さすがに骨が見えるような外傷や骨折となると痛みを和らげる程度しか効果がないんだけど……それでも五年前にもらった魔国の技術による魔道具のおかげでそれなりに騎士たちからは好評なんだよね。
兄様たちに言わせると末っ子皇女が癒やしてくれたっていうだけで付加価値があるんだそうだ。
そんなもんに付加価値見出されてもなんか嬉しくないなあ……。
とにかく、私が引かないとわかったのだろうフォルティス様は深いため息をつくと勢いよく絆創膏に手をかけて一気に引っぺがしたのだ。
「フォ、フォルティス様!? 痛くありませんか!」
「この程度はなんてことありません。……どうすればよろしいですか。貴女の前に跪けばよろしいでしょうか」
「あ、いえ……あの、椅子に座っていただけると」
うさ耳のイケメン騎士を跪かせるとか私の中で別の扉が開いちゃいそうなんで止めていただきたいです。切実に。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます